第79話 強くなりたい
訓練を終えた夕暮れ。
茜色に染まる訓練場。
エリシアは木剣を抱えたまま、静かに立っていた。
今日も怖かった。
手は震えた。
涙も流れた。
それでも。
昨日より、一歩だけ前へ進むことができた。
その小さな一歩が、少女の胸に新たな想いを芽生えさせていた。
エリシアは、ゆっくりとゼノンの前へ歩み寄る。
「お父様」
ゼノンは優しく微笑んだ。
「どうした」
エリシアは木剣を胸の前で抱き締めながら、静かに口を開く。
「私は」
「弱い自分とさよならしたい」
一度、小さく息を吸う。
そして、真っ直ぐ父を見つめた。
「お父様みたいに」
「誰かを守れる人になりたい」
ゼノンはしばらく何も言わなかった。
その真っ直ぐな瞳を見つめ。
静かに娘の頭へ手を置く。
「エリシア」
「お前は、もう十分強い」
エリシアは目を丸くした。
ゼノンは穏やかな笑みを浮かべる。
「本当に強い者とは」
「恐怖がない者ではない」
「恐怖を抱えながらも」
「前へ進める者だ」
「お前は今日」
「その一歩を踏み出した」
「私は、それを誇りに思う」
その言葉が。
ゆっくりとエリシアの胸へ染み渡っていく。
エリシアは木剣へ視線を落とした。
まだ怖い。
まだ震える。
過去は消えていない。
傷も癒えてはいない。
それでも。
もう逃げない。
エリシアは木剣を静かに握り直す。
今度は。
誰かに言われたからではない。
誰かに認められるためでもない。
良い子でいるためでもない。
自分の意思で。
自分の未来を切り拓くために。
少女は静かに前を向く。
まだ弱い。
まだ怖い。
それでも。
その瞳には、確かな光が宿っていた。
――強くなりたい。
その願いは。
いつか誰かを守るための力となり。
少女を、未来へと導いていく。




