第7話 辺境伯家の三女
アルディア王国。
王国北西部の国境を代々守り続ける名門貴族――ヴァレンシュタイン辺境伯家。
武門として知られるその家は、領民から厚い信頼を集める名家であった。
当主は、アルフレッド・ヴァレンシュタイン辺境伯。
その妻、エレオノーラ。
二人の間には既に三人の子どもがいた。
長男ジークハルト。
長女セレスティア。
次女リリアーナ。
そして、この日。
ヴァレンシュタイン家に、新たな命が誕生する。
「おめでとうございます、辺境伯様!」
「元気な女の子でございます!」
産婆の明るい声が、静かな屋敷へ響き渡った。
廊下で待ち続けていたアルフレッドは、大きく息を吐く。
「そうか……。」
「母子ともに無事なのだな。」
「はい。」
「お二人とも、とてもお元気でございます。」
その報告を聞いたアルフレッドは、足早に妻の待つ部屋へ向かった。
部屋の中では、出産を終えたばかりのエレオノーラが、小さな命を優しく抱いている。
彼女は疲れた表情の中にも、幸せそうな笑みを浮かべていた。
「あなた。」
「見てください。」
「とても可愛い女の子ですよ。」
アルフレッドは、そっと娘を抱き上げる。
腕の中に収まるほど小さな身体。
小さな手。
小さな指。
静かな寝息。
その温もりに触れた瞬間、自然と笑みがこぼれた。
「……ようこそ。」
「今日から、お前は我が家の大切な娘だ。」
その時だった。
勢いよく扉が開く。
「お父様!」
「赤ちゃん生まれたって本当!?」
真っ先に駆け込んできたのは長男ジークハルトだった。
その後ろから、長女セレスティアと次女リリアーナも続く。
三人は恐る恐る父の腕の中を覗き込んだ。
「わぁ……。」
「ちっちゃい。」
ジークハルトが思わず声を漏らす。
セレスティアは目を輝かせた。
「お人形さんみたい……。」
リリアーナは満面の笑みを浮かべる。
「私、お姉ちゃんになったの!」
その無邪気な一言に、部屋中が優しい笑い声に包まれた。
エレオノーラは子どもたちを見つめながら微笑む。
「みんな、この子をよろしくね。」
「もちろん!」
三人は声を揃えて頷いた。
こうして。
ヴァレンシュタイン家の三女は、
エリシア。
と名付けられた。
数日後。
辺境伯家より、領内へ正式に誕生が発表される。
「辺境伯家に三女がお生まれになったそうだ。」
「それはめでたい!」
「きっと奥様のように、お優しい方になられるのでしょう。」
「健やかに育ってほしいものだ。」
祝いの花。
祝いの品。
祝福の手紙。
屋敷には連日、多くの贈り物が届けられた。
領民たちもまた、新しい命の誕生を自分たちのことのように喜んでいた。
父に愛され。
母に抱きしめられ。
兄に頭を撫でられ。
姉たちに可愛がられながら。
幼いエリシアは、たくさんの愛情に包まれて育っていく。
まだ何も知らない。
悲しみも。
憎しみも。
人の悪意も。
幼いエリシアにとって、この世界は優しく、美しいものだった。
そして誰も疑わなかった。
この幸せな日々が、これからもずっと続いていくことを。




