第75話 決意
ある日の夕暮れ。
エリシアは一人、黒竜城の訓練場を静かに見つめていた。
木剣がぶつかり合う音。
鍛錬に励む黒竜騎士たちの掛け声。
ノクスとアステリアも、竜影流の稽古に励んでいる。
誰もが、自分よりもずっと強かった。
その姿を見つめながら、エリシアは胸へそっと手を当てる。
思い浮かぶのは。
黒曜山で出会った黒竜騎士。
命懸けで自分を守ってくれた人。
初めて優しさを向けてくれた人。
今では、大好きなお父様。
優しく抱きしめてくれるお母様。
いつも遊んでくれるノクスお兄様。
髪を結ってくれるアステリアお姉様。
そして。
木剣を向けられただけで泣き崩れた、あの日の自分。
何もできなかった。
怖くて。
苦しくて。
ただ泣くことしかできなかった。
エリシアは小さく呟く。
「私……」
「強くなりたい」
もう。
泣いているだけの自分ではいたくない。
守られているだけではなく。
いつか。
大好きな家族を。
誰かを守れる自分になりたい。
お父様のように。
優しく。
強く。
誰かを守れる人になりたい。
夕陽が少女の横顔を優しく照らす。
その瞳に宿った決意は、もう誰かに与えられたものではない。
エリシア自身が、自ら選んだ未来だった。
小さな胸へ灯ったその想いは。
やがて少女を、新たな一歩へ導いていく。




