第71話 父親失格
数日後。
黒竜城・会議室。
そこへ集められたのは、黒竜王家の家族だけだった。
黒竜王ゼノン。
黒竜王妃セレーネ。
第一王子ノクス。
第一王女アステリア。
部屋には重苦しい沈黙が流れていた。
誰一人、口を開けない。
訓練場で泣き叫んだエリシアの姿が、今も脳裏から離れなかった。
やがて。
ゼノンは静かに立ち上がる。
そして。
三人へ向かって深く頭を下げた。
「あなた……!」
セレーネが息を呑む。
ノクスとアステリアも驚き、目を見開いた。
ゼノンは頭を下げたまま、静かに口を開く。
「私たちは勘違いしていた」
「エリシアが笑うようになった」
「だから安心したのだと」
「少しずつ心を開いてくれているのだと」
一度言葉を切る。
苦しそうに拳を握り締めた。
「違った」
静まり返った部屋へ、その一言だけが重く響く。
「あの子は今も」
「一人で苦しんでいた」
「苦しみを押し殺し」
「私たちに心配を掛けまいと」
「笑顔を作り続けていた」
ゼノンは静かに目を閉じる。
エリシアの笑顔が浮かぶ。
『大丈夫です』
『ありがとうございます』
『私は平気です』
その一つひとつが。
助けを求める悲鳴だった。
それなのに。
自分は何一つ気付くことができなかった。
「私は王失格だ」
その言葉に、ノクスは思わず顔を上げる。
「父上、それは――」
しかし。
ゼノンは静かに首を横へ振った。
「……いや」
「違う」
ゆっくりと顔を上げる。
その瞳には、自分自身への深い悔恨が滲んでいた。
「私は」
「父親失格だった」
部屋が静まり返る。
セレーネは唇を噛み締め、静かに目を伏せた。
ノクスは拳を強く握り締める。
アステリアの瞳からは、一筋の涙が零れ落ちた。
誰も悪意はなかった。
誰もエリシアを傷付けようと思っていたわけではない。
それでも。
家族でありながら。
あの子の心の傷に、誰一人気付いてあげられなかった。
ゼノンは静かに呟く。
「エリシアは」
「私たちに気を遣い」
「嫌われまいと笑っていた」
「まだ五歳の子どもが」
「家族へ気を遣わねばならぬなど」
「そんな家族であってよいはずがない」
その言葉に。
誰も返す言葉を持たなかった。
家族だからこそ。
もっと早く気付いてあげるべきだった。
もっと早く、その小さな手を握ってあげるべきだった。
重く流れる沈黙だけが。
その後悔の深さを、何より雄弁に物語っていた。




