第67話 いい子
エリシアが黒竜王家の一員となってから、数日が過ぎた。
朝は家族揃って朝食を囲み。
昼は魔法の訓練。
夕方はノクスやアステリアと城内を散歩する。
毎日が穏やかで、温かな時間だった。
ノクスは妹を気遣い、よく声を掛けてくれる。
「エリシア」
「困ったことはないか?」
エリシアは笑顔で答える。
「大丈夫です」
アステリアは新しい髪飾りや可愛らしい小物を持ってくる。
「どっちが似合うと思う?」
エリシアは少し考え、微笑んだ。
「アステリアお姉様の好きな方で大丈夫です」
お腹が空いていても。
「おかわりはいるか?」
「大丈夫です」
疲れていても。
「少し休もう」
「私は平気です」
欲しいものを聞かれても。
「何か欲しいものはある?」
「ありません」
悲しくても。
辛くても。
寂しくても。
笑う。
「ありがとうございます」
「大丈夫です」
「私は平気です」
誰よりも良い子でいようとした。
(嫌われちゃだめ)
(迷惑を掛けちゃだめ)
(我儘を言っちゃだめ)
(ちゃんと笑わないと)
(良い子でいないと)
(今度こそ……捨てられないように)
それが、エリシアにとって生きる術だった。
黒竜王ゼノンは、娘が少しずつ笑顔を取り戻してくれたのだと思っていた。
黒竜王妃セレーネも、その笑顔を見て安心していた。
ノクスも。
アステリアも。
妹が新しい生活に慣れてきたのだと信じていた。
けれど。
その笑顔は、幸せだから浮かべている笑顔ではなかった。
家族に嫌われないため。
また捨てられないため。
必死に作り続けた笑顔だった。
まだ誰一人。
その笑顔が、エリシア自身を守るための『仮面』であることに気付いてはいなかった。




