第65話 本当の家族
数日後。
黒竜城では、一人の少女を迎えるための養子縁組の儀が執り行われていた。
黒竜王ゼノンの前へ、エリシアが静かに歩み出る。
ゼノンは穏やかな眼差しで少女を見つめ、静かに口を開いた。
「エリシア」
「これは命令ではない」
「嫌なら断っても構わない」
一呼吸置き、優しく微笑む。
「私たちの養女になってくれないか」
エリシアの瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
何度も何度も頷きながら、小さく答えた。
「……はい」
震える声だった。
しかし、その返事に迷いはなかった。
ゼノンは静かに頷く。
「今日より、お前は我が娘だ」
「名を」
「エリシア・ノワール=ヴェルとする」
その瞬間。
黒竜王家に、一人の娘が迎えられた。
黒竜王妃セレーネは、涙ぐみながらエリシアの前へ歩み寄る。
そして、優しく抱きしめた。
「ようこそ」
「私たちの家族へ」
エリシアは声を上げて泣いた。
セレーネは少女の背中を優しく撫でながら、穏やかに微笑む。
「あなたは、本来」
「王家へ生まれてくるはずだった娘ではないかと、私は思っています」
エリシアは驚いたように顔を上げた。
セレーネは涙を浮かべながら続ける。
「ほんの少しだけ道を違え」
「他所のお家で育っただけ」
「そして今」
「ようやく、この家へ帰って来てくれたのですね」
その言葉に。
エリシアは堪えきれず、大粒の涙を流した。
溢れ出す涙は止まらない。
泣きながら、何度も何度も頷く。
ゼノンは静かに少女の頭へ手を置く。
その大きく温かな手からは、何の恐怖も感じなかった。
あるのは、父親の温もりだけ。
エリシアは二人を見つめる。
涙で滲む視界の中。
生まれて初めて。
自分の意思で。
「……お父様」
「……お母様」
その一言に。
黒竜王ゼノンと黒竜王妃セレーネは、静かに微笑んだ。
こうして。
家族に捨てられた一人の少女は。
本当の家族を見つけた。




