第63話 竜神皇の誓い
翌日。
黒竜王ゼノンは、エリシアを執務室へ呼び出した。
部屋には、黒竜王妃セレーネもいる。
エリシアは少し緊張した面持ちで、二人の前へ立った。
ゼノンは少女を優しく見つめ、静かに口を開く。
「エリシア」
「今日は、お前へ伝えたいことがある」
エリシアは小さく頷いた。
ゼノンは穏やかな声で続ける。
「私は」
「お前を家族として迎えたいと思っている」
その言葉を聞いた瞬間。
エリシアの身体が小さく震えた。
――家族。
その一言だけで。
胸の奥へ閉じ込めていた記憶が、一気に溢れ出す。
父アルフレッド。
母エレオノーラ。
兄姉たち。
楽しかった幼い日々。
そして。
黒曜山。
走り去る馬車。
誰一人、振り返らなかった背中。
エリシアは一歩、後ずさった。
「だめ……」
震える声が漏れる。
「また……」
「また捨てられるかもしれない」
ぽろりと涙が零れる。
「信じたら……」
「また、一人になっちゃう……」
自分の身体を抱き締め、小さく震える。
「ごめんなさい……」
「本当は……」
「信じたいのに……」
「信じられません……」
部屋は静まり返る。
黒竜王妃セレーネは、胸を締め付けられる思いで少女を見つめた。
無理もない。
家族を信じたからこそ、傷付いた。
だから今は、誰を信じることもできない。
ゼノンは少女を責めなかった。
無理に頷かせようともしなかった。
ただ静かに頷く。
「そうか」
「それがお前の、本当の気持ちなのだな」
そして、ゆっくりと立ち上がる。
「ならば」
エリシアは涙で濡れた瞳を向ける。
ゼノンは真っ直ぐ少女を見つめ、厳かに告げた。
「我らが神」
「竜神皇様に誓おう」
その言葉は、揺るぎない覚悟に満ちていた。
しかし。
エリシアの震えは止まらない。
竜神皇へ誓うと言われても。
信じたい気持ちと。
信じることへの恐怖が。
胸の中で激しくぶつかり合っていた。
ゼノンは静かに少女を見つめる。
そして、ゆっくりと首元へ手を添えた。




