第52話 国家の危機
黒竜王会議。
偵察報告が終わると、会議室は重苦しい沈黙に包まれた。
やがて。
一人の竜人が静かに立ち上がる。
外務大臣だった。
「陛下」
「この件は、極めて危険です」
静かな声だった。
しかし、その言葉には、国家を預かる者としての重みがあった。
「相手はアルディア王国」
「しかも、ヴァレンシュタイン辺境伯家は王国有数の名門です」
「その令嬢を我が国が保護しているとなれば――」
一拍置く。
「誘拐と主張される可能性がございます」
会議室がざわつく。
軍務大臣も立ち上がった。
「外務大臣の意見に賛成です」
「仮にアルディア王国が武力行使へ踏み切れば」
「国境紛争は避けられません」
さらに声を強める。
「最悪の場合」
「全面戦争へ発展する恐れもございます」
その言葉に、会議室は静まり返る。
今、この場で議論しているのは。
一人の少女だけではない。
両国の未来だった。
続いて法務大臣が立ち上がる。
「陛下」
「竜族には古くから受け継がれる掟がございます」
全員の視線が集まる。
「他国の問題へ、不必要に干渉してはならない」
「これは掟の制定以来、一度も破られたことのない掟です」
法務大臣は静かに続ける。
「人間領の問題は、人間領で解決すべきです」
「たとえ同情すべき事情があろうとも」
「我らが介入すれば、国家の秩序そのものを揺るがしかねません」
誰も反論できなかった。
外務。
軍事。
法。
そのどれもが正論だった。
長い沈黙が流れる。
ゼノンは腕を組み、静かに目を閉じていた。
一人の少女の命。
数百万の国民。
竜族の掟。
王として守るべきものが、あまりにも多すぎた。
会議室には、重苦しい空気だけが流れ続けていた。




