第51話 偵察報告
重苦しい空気が流れる黒竜王会議。
ゼノンの視線を受け、黒曜山でエリシアを保護した巡回黒竜騎士が一歩前へ進み出た。
「保護当時の状況をご報告いたします」
会議室は静まり返る。
「保護場所は、黒曜山中腹」
「少女は荷物を抱え、一人で救助を待ち続けておりました」
「周囲に保護者の姿はなく、食料も僅か」
「極度の空腹と衰弱が見られました」
騎士は静かに続ける。
「保護した少女は著しく痩せ細っておりました」
「また、医務長の診察により、全身へ新旧さまざまな打撲痕が確認されております」
医務長が静かに頷く。
「事故による傷ではありません」
「新しい痣、治りかけた痣、古い痣が幾重にも残されていました」
「長期間にわたり、繰り返し暴力を受けていた可能性が極めて高いと判断しております」
室内へ重苦しい空気が流れる。
続いて、黒竜騎士団長が前へ出た。
「陛下のご命令により、人間領の偵察を実施いたしました」
机の上へ数枚の報告書が並べられる。
「市場」
「酒場」
「辺境伯邸周辺」
「少女の服装」
「衣服へ刺繍された家紋」
「領内で流れている噂」
「これらを総合的に調査した結果をご報告いたします」
騎士団長は一枚の資料へ目を落とした。
「領内では、このような噂が広まっております」
「ヴァレンシュタイン辺境伯家の末娘が監禁されている」
「全属性魔法の持ち主らしい」
「魔王の子だそうだ」
会議室に小さなどよめきが広がる。
騎士団長は静かに続けた。
「さらに、少女が身に着けていた衣服に刺繍されていた家紋は、ヴァレンシュタイン辺境伯家のものと一致しております」
「以上の調査結果を総合的に判断した結果――」
一拍置く。
「保護した少女は、ヴァレンシュタイン辺境伯家の令嬢である可能性が極めて高いと思われます」
会議室がざわつく。
「辺境伯令嬢だと……!」
「まさか……」
「相手はアルディア王国有数の名門ではないか」
誰もが言葉を失う。
ゼノンは静かに目を閉じた。
脳裏へ浮かぶのは、遠い昔の歴史。
魔王ニコラス。
世界を滅亡寸前まで追い込んだ、全属性魔法の使い手。
あの日以来。
人間たちは魔法を恐れるようになった。
特にアルディア王国は、その影響を色濃く受け継いでいる。
制御できない魔法は災厄。
全属性魔法は魔王の象徴。
幼い頃から、そのように教えられてきた国だ。
ゼノンは静かに口を開く。
「……なるほど」
「魔法が暴走したのだな」
誰も口を挟まない。
ゼノンは報告書へ目を落としたまま続ける。
「全属性魔法が顕現した」
「人々は魔王を連想した」
「少女は恐れられた」
会議室は静まり返る。
「そして」
「迫害された可能性が高い」
その一言に。
誰も反論する者はいなかった。




