第46話 保護
青年は腕の中で眠るエリシアを見つめた。
冷え切った身体。
痩せ細った腕。
泥だらけの服。
泣き腫らした瞳。
その小さな身体は、どれほど辛い時間を過ごしてきたのかを物語っていた。
青年は静かに眉を寄せる。
「こんな幼い子が……」
「なぜ、こんな場所にいる」
黒曜山は、ノワール=ヴェル竜王国との国境。
人間が一人で足を踏み入れる場所ではない。
ましてや。
五歳ほどの少女が生き延びられる場所でもなかった。
青年は少女の服装へ目を向ける。
質の良い生地。
丁寧な刺繍。
間違いなく、貴族の子どもだった。
それなのに。
その身体は痩せ細り。
腕や足には、小さな傷や痣がいくつも残っている。
青年は静かに息を吐いた。
「……そういうことか」
それ以上、言葉は続けなかった。
事情を聞くまでもない。
竜族は幼子を見捨てない。
困っている者がいれば手を差し伸べる。
それは幼い頃から教えられる、竜族の誇りだった。
助けを求める者を見捨てることは、竜族にとって最大の恥である。
青年は優しくエリシアを抱き直す。
「もう安心しろ」
「君は、私たちが守る」
静かにそう告げると、全身が淡い黒い光に包まれた。
次の瞬間。
青年の姿は、巨大な黒竜へと変わる。
漆黒の翼が大きく広がる。
バサァッ――。
一度、大きく羽ばたくと、黒竜は夜空へ舞い上がった。
腕の中の少女を落とさぬよう、大切に抱えながら。
目指す先は、ノワール=ヴェル竜王国。
黒竜城。
慈悲を尊ぶ竜族が暮らす、少女の新たな運命の地だった。




