第41話 辺境伯として
翌日。
ヴァレンシュタイン辺境伯邸。
執務室では、重臣たちによる緊急会議が開かれていた。
室内には重苦しい空気が漂っている。
一人の文官が静かに口を開いた。
「辺境伯様」
「このままでは、辺境伯家の信用に関わります」
続いて財務官も口を開く。
「噂は既に領内全域へ広がっております」
「商人たちの間にも動揺が広がり始めています」
「早急に領民を安心させる必要がございます」
騎士団長も厳しい表情で頷く。
「領民は辺境伯家のご判断を待っております」
「どうか、ご決断ください」
執務室は静まり返った。
アルフレッドは机の上で両手を組み、俯いたまま動かない。
娘を守りたい。
その想いは今も変わらない。
しかし。
辺境伯には、娘だけではない。
守らなければならないものがある。
領民。
領地。
ヴァレンシュタイン辺境伯家。
代々受け継いできた名誉。
そして、ジークハルトやセレスティア、リリアーナの未来。
様々な思いが胸の中で渦巻いていく。
長い沈黙の末。
アルフレッドは静かに立ち上がった。
窓の外には、穏やかな領都の街並みが広がっている。
その景色を見つめながら、小さく目を閉じた。
地下室で暮らす幼い娘の姿が脳裏をよぎる。
だが。
次の瞬間には、その姿を振り払うように首を横へ振った。
今、自分は父親ではない。
この領地を預かる辺境伯だ。
領民を守る。
辺境伯家を守る。
そのためなら。
どんな決断であろうと、自分が背負わなければならない。
アルフレッドは静かに息を吐く。
「……辺境伯として」
その小さな呟きは。
一人の父親が、自らの心へ言い聞かせるための言葉だった。




