第26話 冷たい食卓
エリシアが一人で食事をするようになってから、しばらくが過ぎた。
最初の頃は、家族と同じ料理が部屋へ運ばれてきていた。
温かなスープ。
焼きたてのパン。
柔らかな肉料理。
食べる場所が違うだけで、料理だけは変わらなかった。
それだけが、エリシアにとって家族との繋がりだった。
しかし。
その小さな繋がりも、少しずつ失われていく。
ある日の夕食。
運ばれてきた盆を見て、エリシアは小さく首を傾げた。
「あれ?」
いつもあった肉料理がない。
スープも少ない。
パンも一つだけだった。
侍女は申し訳なさそうに頭を下げる。
「本日のお食事でございます」
「今日は少ないの?」
無邪気な問い掛けだった。
侍女は苦しそうに視線を落とす。
「旦那様のご判断です」
「お嬢様は感情が高ぶると、魔法が顕現してしまいます」
「食事も刺激にならないよう、できるだけ簡素なものにするよう命じられました」
エリシアは黙って話を聞いていた。
「そうなんだ……」
少しだけ寂しそうに笑う。
「私の魔法のせいなんだね」
侍女は何も答えられなかった。
答えられるはずがなかった。
エリシアは椅子へ座り、小さく手を合わせる。
「いただきます」
冷めかけたスープを口へ運ぶ。
パンを少しずつちぎって食べる。
以前より量は少ない。
それでも、一粒も残さず食べた。
「ごちそうさまでした」
空になった皿を見つめながら、小さく笑う。
「ちゃんと全部食べたよ」
侍女は胸が締め付けられる思いだった。
「エリシアお嬢様……」
エリシアは首を横へ振る。
「大丈夫」
「私、いい子だから」
「これなら、みんな困らないもんね」
その言葉に、侍女は俯くことしかできなかった。
まだ五歳。
本来なら家族に囲まれ、笑いながら食卓を囲んでいるはずの年頃。
それなのに。
目の前の少女は、自分が我慢することが当然だと思い始めていた。
侍女が食器を片付けようとすると、エリシアが小さく呼び止める。
「あのね」
「もっと魔法がなくなったら」
「また、みんなと一緒にご飯食べられるよね?」
侍女は唇を噛み締めた。
その問いに答えることはできなかった。
静かに一礼し、部屋を後にする。
閉まる扉を見つめながら、エリシアは小さく微笑んだ。
「頑張ろう」
「もっと、いい子になろう」
「そしたらきっと……」
「また、みんなと一緒にご飯が食べられるよね」
その願いは、小さな部屋へ静かに消えていった。




