第24話 嫌われちゃったのかな
一人きりの夕食を終えたエリシアは、自室へ戻っていた。
静かな部屋。
聞こえるのは、時計の針が時を刻む音だけだった。
ベッドへ腰掛け、小さく膝を抱える。
今日も。
お父さまは頭を撫でてくれなかった。
お母さまは抱きしめてくれなかった。
お兄ちゃんも。
お姉ちゃんたちも。
一緒に遊んではくれなかった。
エリシアは俯いたまま、小さく呟く。
「……私」
「嫌われちゃったのかな」
その言葉を口にした瞬間。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
「違うよね……」
「きっと、みんな忙しいだけだよね」
そう言い聞かせる。
そう信じようとする。
でも。
食堂で見た家族の笑顔が、頭から離れない。
自分だけがいなかった。
その光景が何度も何度も浮かんできた。
エリシアは立ち上がり、鏡の前へ向かう。
涙を袖でごしごし拭いた。
そして、小さく笑ってみせる。
「えへへ」
ぎこちない笑顔だった。
もう一度。
「えへへ」
鏡の中の自分へ話しかける。
「笑ってれば大丈夫」
「いい子にしてたら、お父さまたちは元に戻ってくれる」
「だから……」
「泣いちゃ駄目」
そう言い聞かせる。
けれど。
涙だけは止まらなかった。
一粒。
また一粒。
ぽたり。
ぽたり。
頬を伝い、床へ落ちていく。
「どうして……」
「どうして止まらないの……」
その時だった。
ぼっ。
掌へ小さな炎が灯る。
「え……?」
次の瞬間。
ふわりと風が吹き抜ける。
机の上の本が音を立ててめくれ始めた。
涙は宙へ浮かび。
床が小さく震える。
火。
水。
風。
土。
四つの属性が、悲しみに呼応するように次々と顕現していく。
「やだ……」
エリシアは慌てて両手を胸へ抱き寄せた。
「お願い……」
炎は消えない。
風も止まらない。
部屋中の魔力が、不安定に溢れ続ける。
「止まって……」
震える声で呟く。
「止まってよ……」
涙が次々と溢れる。
魔法も、それに呼応するように激しさを増していく。
「止まって!」
小さな叫びは、誰にも届かない。
炎は揺れ続ける。
風は吹き荒れる。
地面は震え続ける。
エリシアはその場へしゃがみ込み、耳を塞いだ。
「止まってよ!!」
「お願いだからぁ!!」
「もう……」
「もう誰も傷付けたくないの……!」
幼い少女の悲痛な叫びが、静かな部屋へ響き渡る。
その時。
エリシアの胸へ、一つの答えが浮かんでしまった。
「……そうか」
「みんなが私を嫌いになったのは……」
震える唇が、小さく動く。
「この魔法のせいなんだ……」
ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「きっと……」
「こんな力さえなければ……」
「お父さまも」
「お母さまも」
「お兄ちゃんも」
「お姉ちゃんたちも」
「また前みたいに笑ってくれるのに……」
エリシアは自分の身体を強く抱き締めた。
「こんな力……」
「いらない……」
「こんな力なんて、大嫌い……」
その夜。
幼い少女は初めて、自分に宿った力を心の底から憎んだ。




