第20話 強すぎる力
エリシアが五歳になった頃。
その身に宿る魔法は、日に日に強さを増していた。
最初は花火のような小さな火花だった。
今では感情が大きく揺れるたびに、小さな炎が生まれるようになっていた。
驚けば、炎が揺らめく。
悲しめば、水滴が宙へ浮かぶ。
喜べば、風が吹き抜ける。
転べば、大地が小さく震える。
すべて無意識だった。
エリシア自身にも、どうすれば止められるのか分からない。
「ご、ごめんなさい……」
何かが起こるたびに、エリシアは頭を下げた。
謝ることしかできなかった。
屋敷の使用人たちも、少しずつ変わっていく。
以前は手を繋いで歩いてくれた侍女も、少し距離を空けるようになった。
着替えを手伝う時も。
髪を梳かす時も。
どこか怯えたような表情を浮かべている。
「エリシアお嬢様」
「失礼いたします」
優しい口調は変わらない。
それでも、その手は以前ほど近付いてはこなかった。
家族も同じだった。
アルフレッドは娘へ近付こうとして、何度も足を止める。
エレオノーラも抱きしめたい気持ちを押し殺すように、胸の前で手を握り締めていた。
兄姉たちも笑顔を向けようとする。
けれど、あの日セレスティアが負った火傷を思い出すたび、その足は止まってしまう。
誰も悪くない。
誰もエリシアを嫌いになったわけではない。
それでも。
得体の知れない力は、人の心へ少しずつ恐怖を植え付けていった。
ある日の午後。
エリシアは庭で一人遊んでいた。
「きれい……」
咲き始めた花へ手を伸ばす。
その瞬間。
ふわりと風が舞い上がり、花びらが一斉に宙を舞う。
驚いたエリシアが息を呑む。
ぼっ。
今度は掌へ小さな炎が灯った。
「あっ!」
慌てた瞬間、地面が僅かに揺れ、水滴が空中へ浮かび上がる。
火。
水。
風。
土。
四つの属性が、まるで呼応するように次々と顕現していく。
それを見ていた使用人たちは、思わず後ずさった。
「お嬢様……」
誰も近付けない。
近付きたいのに、身体が動かない。
エリシアは不安そうに周囲を見回した。
「……ごめんなさい」
小さな声だった。
「私、また何かしちゃった?」
返事は返ってこない。
静まり返った庭園に、その言葉だけが寂しく響いた。
誰もエリシアを憎んではいない。
誰も傷付けたいわけではない。
それでも。
その強すぎる力は、少しずつ家族と使用人たちの心へ恐怖を刻み始めていた。
そして、その恐怖は。
ヴァレンシュタイン家から、笑顔を少しずつ奪っていくのだった。




