第1話 エトワール大陸
この物語は、家族から捨てられた五歳の少女エリシアが、黒竜王と出会い、新しい家族の愛に触れながら成長していく物語です。
人間。
竜族。
妖精。
魔法。
そして、世界に満ちる魔粒子。
異なる種族や文化と出会いながら、エリシアは少しずつ自分の居場所を見つけていきます。
これは、世界を救う英雄の物語ではありません。
居場所を失った一人の小さな少女が、新しい父と母、兄と姉に出会い、誰かに愛される幸せを知り、
やがて心から、
「毎日が幸せ」
と笑えるようになるまでの物語です。
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
エトワール大陸。
広大な海に囲まれたその大陸には、多くの種族が、それぞれの文化を築きながら暮らしていた。
人間。
竜族。
エルフ。
ドワーフ。
獣人。
彼らは異なる歴史を歩み、異なる価値観を育みながら、この世界で命を紡いできた。
北方には、一年を通して雪と氷に閉ざされた極寒の地。
南方には、噴煙を上げる火山が連なる灼熱の大地。
広大な森林ではエルフが自然と共に暮らし、険しい山岳ではドワーフが代々鍛冶の技を受け継ぐ。
果てしない草原では獣人たちが風と共に駆け、人間は各地に王国や帝国を築き、文明を発展させていった。
種族は違えど、誰もがこの大陸で生き、時に争い、時に助け合いながら、長い歴史を紡いできたのである。
その中でも、ひときわ特別な存在があった。
――竜族。
世界最古にして、最も長命な種族。
悠久の時を生きる彼らは、人智を超えた知識と圧倒的な力を有し、太古より世界そのものを見守り続けてきた。
人々は竜族を畏れた。
同時に、敬った。
そして、この世界を見守る守護者として、深い信頼を寄せていた。
だが、竜族は決して世界を支配しようとはしなかった。
彼らが望んだものは、覇権でも征服でもない。
命あるすべての者が、穏やかに生きられる世界。
その志は、四万年前、竜族を統べた初代竜神皇エーテルより受け継がれてきた、ただ一つの教えでもあった。
――万物を恵み、潤し、育てよ。
それは竜族が四万年もの間、代々受け継いできた、不変の使命である。
竜神皇エーテルの御遺志を胸に、竜族は大陸各地へ散った。
白き雪原を守る者。
紅き火山を守る者。
碧き湖と海を守る者。
翠深き山々を守る者。
そして、漆黒の大地を守る者。
それぞれが己の地を治めながら、万物の守護者として世界を見守り続けてきた。
遥か昔。
人間と竜族の間には、争いなど存在しなかった。
人間は竜族を敬い、竜族もまた、人間を未来ある若き種族として慈しんでいた。
竜族は惜しみなく叡智を授けた。
人間はそれを受け継ぎ、学び、工夫を重ね、新たな文化と文明を築き上げていく。
互いに手を取り合い。
互いに支え合い。
共に未来を切り拓いていった。
誰もが信じていた。
この平和は、永遠に続くものだと。
しかし――。
その繁栄は、一人の人間によって終わりを告げる。
その男は、竜族より授かった叡智を、世界を豊かにするためではなく、自らの欲望を満たすために用いた。
その名は、ニコラス。
後に世界で初めて――
『魔王』
と呼ばれることになる、一人の男であった。




