第17話 ひとりぼっち
セレスティアが火傷を負ってから数日。
屋敷には、以前のような賑やかさが少しずつ失われていた。
兄姉たちは、エリシアに冷たくしたわけではない。
話しかければ返事をしてくれる。
笑いかけてもくれる。
けれど。
以前のように、自分から遊びへ誘ってくれることはなくなっていた。
ある日の昼下がり。
エリシアは屋敷の廊下を歩いていた。
すると、中庭の方から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「待てー!」
「捕まえてみてください!」
「きゃー!」
ジークハルト。
セレスティア。
リリアーナ。
三人は昔のように笑いながら庭を駆け回っていた。
その姿を見つけたエリシアの表情が、ぱっと明るくなる。
「お兄ちゃん!」
「お姉ちゃん!」
嬉しそうに駆け寄る。
「私も遊ぶ!」
三人は一瞬だけ動きを止めた。
目を合わせる。
短い沈黙。
やがてジークハルトが困ったように笑った。
「今日は……ごめんな」
「また今度、一緒に遊ぼう」
セレスティアも申し訳なさそうに微笑む。
「ごめんなさいね、エリシア」
リリアーナも俯きながら小さく呟いた。
「ごめんね……」
エリシアは少しだけ寂しそうな顔をした。
それでも、無理に笑顔を作る。
「うん!」
「また今度ね!」
三人へ手を振り、小さく駆け出す。
振り返らなかった。
振り返ったら、泣いてしまいそうだったから。
庭園の奥。
色とりどりの花が咲く花壇の前へ座り込む。
一人きり。
優しい風が髪を揺らす。
小鳥のさえずりが聞こえる。
景色は何一つ変わっていない。
美しい庭園。
青い空。
温かな陽射し。
変わったのは――。
家族だけだった。
エリシアは咲いている花へ、小さく話しかける。
「今日はね」
「みんな忙しかったんだって」
自分へ言い聞かせるように微笑む。
「だから仕方ないよね」
返事はない。
風だけが静かに花を揺らした。
夕暮れ。
一人で屋敷へ戻る。
食卓には家族が揃っていた。
アルフレッドも。
エレオノーラも。
兄姉たちも。
みんなそこにいる。
誰も怒らない。
誰も叱らない。
それでも。
以前のような笑顔は、もうなかった。
食事を終え、自室へ戻る。
窓から見える夕焼けを眺めながら、エリシアは膝を抱えた。
「……私」
小さく呟く。
「何か悪いことしたのかな」
何度考えても答えは出ない。
どうすれば前みたいに戻れるのかも分からない。
だから今日も。
笑顔でいることにした。
きっと。
いい子にしていれば。
またみんな、前みたいに笑ってくれる。
幼いエリシアは、そう信じていた。
その願いが、少しずつ届かなくなっていることにも気付かないまま。




