第13話 違和感
花火のような小さな魔法が顕現した翌日。
アルフレッドとエレオノーラは、エリシアを連れ、アルディア王国教会を訪れていた。
魔法が顕現した子どもは、教会で魔法適性検査を受ける。
それが王国の古くからの慣習だった。
礼拝堂の奥。
一人の司祭が三人を迎える。
「ヴァレンシュタイン辺境伯閣下、お待ちしておりました」
祭壇の上には、一つの透明な水晶が置かれていた。
魔法適性を測定する魔導具――測定水晶。
「エリシア様」
「こちらの水晶へ手を添えてください」
「うん!」
エリシアは両手で水晶へそっと触れる。
その瞬間だった。
ぼうっ。
水晶の中へ赤い光が灯る。
「火属性ですね」
司祭は頷く。
しかし、その直後。
青い光が現れた。
「……水?」
続いて緑。
さらに茶色。
火。
水。
風。
土。
四つの光が水晶の中で美しく輝き始める。
礼拝堂が静まり返る。
「四属性……」
司祭の声が震えた。
アルフレッドも息を呑む。
エレオノーラは信じられないものを見るように、水晶を見つめていた。
だが。
異変は、それだけでは終わらない。
四色の光は、ゆっくりと互いに混ざり始めた。
赤。
青。
緑。
茶。
やがて境界が消え、一つの渦となる。
水晶の中で渦巻く光は、次第に色を失っていく。
灰色。
そして――。
漆黒。
まるで光そのものを飲み込むような、底知れぬ黒。
誰も言葉を発することができなかった。
その瞬間。
ピシッ。
水晶へ一本の亀裂が走る。
「……っ!」
司祭が目を見開く。
次の瞬間。
――パリンッ!!
測定水晶は乾いた音を響かせ、粉々に砕け散った。
礼拝堂は静寂に包まれる。
司祭は砕けた水晶を見つめたまま、立ち尽くしていた。
「測定水晶が……壊れた……」
アルフレッドも言葉を失う。
測定水晶は王国でも貴重な魔導具であり、壊れることなど滅多にない。
まして、測定中に砕け散るなど、誰も見たことがなかった。
一方、エリシアだけは不安そうに父と母を見上げる。
「お父さま……」
「ごめんなさい」
「壊しちゃった……」
司祭は慌てて首を横へ振る。
「いいえ」
「これはエリシア様の責任ではありません」
しかし、その声は僅かに震えていた。
帰りの馬車。
誰一人として口を開かなかった。
アルフレッドは窓の外を見つめ続ける。
エレオノーラも俯いたまま動かない。
屋敷へ戻っても、その空気は変わらなかった。
昨日まで当たり前だった笑顔が消えている。
兄姉も、そんな両親の様子に戸惑いを隠せない。
ただ一人。
幼いエリシアだけが、その理由を知らなかった。




