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捨てられた少女は、黒竜王の娘となる!?  作者: Atelier Lotus


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エピローグ 帰る場所

 夜。


 黒竜城の食堂には、今日も温かな灯りがともっていた。


 長い食卓を囲むのは、いつもの五人。


 黒竜王ゼノン。


 王妃セレーネ。


 第一王子ノクス。


 第一王女アステリア。


 そして、エリシア。


 今日も変わらない、家族の夕食の時間だった。


「エリー!」


「今日は妖精さんと何して遊んだの?」


 アステリアが楽しそうに尋ねる。


 エリシアはぱっと顔を輝かせた。


「かくれんぼしました!」


「あと、お花畑で一緒に歌ったんです!」


「みんな、とっても楽しそうでした!」


「ふふっ。よかったわね」


 アステリアも嬉しそうに笑う。


「今度は私も混ぜてもらおうかしら」


「はい!」


「みんなもきっと喜びます!」


 元気よく頷くエリシアを見て、ノクスも穏やかに微笑んだ。


「研究も順調だったそうだね」


「はい!」


「クロノス様に、また新しいことを教えていただきました!」


「それはよかった」


「エリシアは本当に研究が好きなんだね」


「大好きです!」


 迷いのない答えに、ゼノンも満足そうに目を細める。


「よく頑張っておるな」


「はい!」


 セレーネも愛おしそうに娘を見つめた。


「毎日、本当に一生懸命ね」


「あなたが楽しそうにしていると、お母様まで嬉しくなるわ」


 エリシアは少し照れくさそうにはにかむ。


「えへへ……」


 食卓には、笑い声が絶えなかった。


 今日あった出来事。


 妖精たちの話。


 研究の話。


 明日は何をして遊ぼうか。


 そんな何気ない会話が、いつまでも続いていく。


 エリシアにとって。


 その何気ない時間こそが、何よりも幸せだった。


 やがて夕食が終わる。


 エリシアは席を立つと、小さく頭を下げた。


「ごちそうさまでした」


 そして、ごく自然に続ける。


「お父様」


「お母様」


 その呼び方に、もう誰も驚かない。


 ゼノンも。


 セレーネも。


 ノクスも。


 アステリアも。


 それを当たり前のように受け止めていた。


 エリシアは、もうこの家の娘なのだから。


「お粗末さま」


 セレーネが優しく微笑む。


「また明日も、一緒に食べましょうね」


「はい!」


 エリシアは嬉しそうに笑った。


     ◇


 その夜。


 エリシアは、なかなか眠ることができなかった。


 嬉しいことが、あまりにもたくさんあったから。


 妖精が見えるようになった。


 クロノスと一緒に研究を成功させた。


 光を失った人々が、再び世界を見ることができるようになった。


 そして。


 黒竜国のみんなが、自分を受け入れてくれた。


 ――竜姫。


 そう呼んでくれた。


 思い出すだけで、胸がいっぱいになる。


 エリシアはそっと寝台を抜け出し、一人、黒竜城の屋上へ向かった。


 外へ出ると、心地よい夜風が頬を撫でる。


 見上げれば、満天の星空。


 数え切れないほどの星々が、黒い夜空いっぱいに輝いていた。


 そして、その間を。


 小さな妖精たちが楽しそうに飛び回っている。


「きれい……」


 エリシアは小さく呟いた。


 妖精が見える。


 家族と同じ景色を見ることができる。


 今でも、夢のようだった。


 しばらく夜空を眺めていると、背後から静かな足音が近づいてきた。


「眠れんのか?」


 振り返る。


「あっ、お父様」


 そこにはゼノンが立っていた。


 ゼノンは何も言わず、娘の隣へ並ぶ。


 二人で一緒に夜空を見上げた。


 しばらく、言葉はなかった。


 静かな夜。


 満天の星。


 楽しそうに舞う妖精たち。


 けれど、その沈黙は少しも寂しくなかった。


 やがて、ゼノンが静かに口を開く。


「今日は、良い日じゃったな」


「はい!」


 エリシアは満面の笑みで頷いた。


「妖精さんが見えるようになって」


「研究も成功して」


「見えなかった人たちが、また見えるようになって」


「それに……」


 少しだけ照れくさそうに笑う。


「みんなが、私のことを竜姫って呼んでくれて……」


 胸の前で、小さな両手を握る。


「毎日が夢みたいです」


 ゼノンは静かに娘を見つめた。


 そして。


 優しく問い掛ける。


「エリシア」


「ここへ来たことを、後悔しておるか?」


 エリシアは少しだけ驚いたように目を丸くした。


 けれど。


 答えに迷うことはなかった。


 ゆっくりと首を横へ振る。


「ううん」


 そして。


 心からの笑顔で答えた。


「毎日が幸せ」


 その言葉を聞いたゼノンは、穏やかに目を細める。


「そうか」


 ただ、それだけ。


 けれど、その短い言葉には、深い安堵と喜びが込められていた。


 エリシアは、そんな父を見上げる。


 少しだけ瞳を潤ませながら。


「お父様」


「ありがとう」


 ゼノンは何も言わず、大きな手を娘の頭へ置いた。


 そして、優しく撫でる。


「こちらこそだ」


 その大きな手の温もりが。


 エリシアには、何よりも嬉しかった。


 あの日。


 居場所を失った一人の少女は。


 新しい家族と出会い。


 新しい故郷を見つけた。


 もう。


 嫌われないように笑う必要はない。


 迷惑を掛けないようにと、怯える必要もない。


 捨てられないように、自分を押し殺す必要もない。


 ここには。


 大好きなお父様がいる。


 大好きなお母様がいる。


 大好きなお兄様がいる。


 大好きなお姉様がいる。


 そして。


 自分を『竜姫』と呼び、迎えてくれた人々がいる。


 ここが。


 エリシアの帰る場所だった。


 その笑顔は、もう誰かに捨てられることを恐れる笑顔ではない。


 大好きな家族に囲まれ。


 大切な故郷に迎えられ。


 心から幸せだと笑う。


 一人の、五歳の少女の笑顔だった。

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