第109話 表彰
表彰
黒竜城・中央広場。
広大な広場を埋め尽くすほどの国民が集まっていた。
騎士。
貴族。
研究者。
城下町の人々。
そして。
妖精眼鏡によって、再び光を取り戻した者たち。
誰もが、一人の少女を見つめていた。
黒髪を揺らしながら、エリシアはゆっくりと壇上へ進む。
まだ五歳。
小さな身体。
これほど大勢の人々の前へ立つのは初めてだった。
緊張で胸がいっぱいになる。
それでも。
エリシアは一歩ずつ、前へ進んでいった。
壇上には、黒竜王ゼノンが立っている。
その隣には、王妃セレーネ。
第一王子ノクス。
第一王女アステリア。
そして少し離れた場所では、クロノスが穏やかな表情で見守っていた。
エリシアはゼノンの前へ立つ。
「エリシア・ノワール=ヴェル」
「はい!」
幼い声。
けれど、精一杯の返事だった。
ゼノンは静かに娘を見つめる。
今、この場において。
父親としてではない。
黒竜国を治める王として。
威厳に満ちた声で告げる。
「そなたは、宮廷魔導研究所所長クロノスと共に、妖精眼鏡を完成させた」
「人間には見ることのできなかった妖精の姿を映し出し、さらには、その技術を応用することで、病によって光を失った多くの民へ、再び視界をもたらした」
広場が静まり返る。
誰もが耳を傾けていた。
ゼノンの声だけが、広大な中央広場へ響き渡る。
「その功績は、魔術の発展だけに留まるものではない」
「何百年もの間、光を失っていた者たちへ」
「再び家族の顔を見る喜びを」
「空を見上げる喜びを」
「この世界を見る喜びを取り戻した」
エリシアは、じっとゼノンを見上げていた。
やがて。
ゼノンは力強く宣言する。
「よって、黒竜王ゼノン・ノワール=ヴェルの名において、そなたの功績を称え、ここに表彰する!」
そして。
ほんの僅かに、その表情を和らげた。
「エリシア」
「誠に大義であった!」
その瞬間。
広場を揺るがすほどの歓声が爆発した。
「うおおおおおおおおおっ!」
「竜姫様!」
「エリシア様!」
「ありがとう!」
「本当にありがとう!」
「我らの竜姫様!」
割れんばかりの拍手。
歓声。
感謝の声。
エリシアは驚いたように目を見開いた。
見渡す限り、人、人、人。
けれど。
そこにはもう、自分を恐れる目はなかった。
人間だからと、不安そうに見つめる者もいない。
皆が笑っていた。
皆が喜んでいた。
そして。
皆が自分へ向かって叫んでいた。
「ありがとう!」
その一言が。
何度も。
何度も。
広場へ響き渡る。
「ありがとう!」
「エリシア様、ありがとう!」
「竜姫様!」
エリシアの瞳に、大粒の涙が浮かんだ。
妖精が見たかった。
ただ、それだけだった。
家族と同じ景色を見たかった。
だから、クロノスと一緒に研究を始めた。
何度失敗しても。
何度行き詰まっても。
諦めなかった。
その小さな願いが。
いつしか、多くの人々へ光を届けていた。
エリシアは胸の前で両手を握りしめる。
そして。
国民へ向かって、深く頭を下げた。
「ありがとう……ございます!」
幼い声が、広場へ響く。
「私も……」
「私も、みんなのことが大好きです!」
一瞬。
広場が静まり返った。
そして次の瞬間。
先ほどを遥かに超える歓声が巻き起こる。
「竜姫様!」
「竜姫様!」
「竜姫様!」
エリシアは泣きながら笑っていた。
その姿を見つめながら。
ゼノンも。
セレーネも。
ノクスも。
アステリアも。
そしてクロノスも。
誇らしそうに微笑んでいた。
かつて。
人間の少女を王家へ迎れることに、不安の声を上げていた国民たち。
その声は、もうどこにもない。
今、黒竜国に響いているのは。
歓喜と。
感謝と。
一人の小さな姫を称える声だけだった。
――竜姫エリシア。
若干五歳。
その日。
彼女は黒竜国すべての民から、惜しみない拍手と感謝を贈られたのだった。




