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捨てられた少女は、黒竜王の娘となる!?  作者: Atelier Lotus


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第10話 お母さま

 三歳になったエリシアは、母エレオノーラと過ごす時間が大好きだった。


 朝食を終えると、二人は手を繋ぎながら庭園を散歩する。


 色とりどりの花が咲き誇る庭園は、エレオノーラが丹精込めて手入れをしている自慢の場所だった。


「お母さま」


「このお花、きれい」


 エレオノーラは足を止め、優しく微笑む。


「これはバラというお花ですよ」


「ばら?」


「ええ」


「花には、一つひとつ名前があるの」


 エリシアは目を輝かせた。


「このお花は?」


「ユリよ」


「こっちは?」


「マーガレット」


 花の名前を教えてもらうたびに、エリシアは嬉しそうに繰り返す。


「ばら」


「ゆり」


「まーがれっと」


「よくできました」


 エレオノーラは優しく頭を撫でた。


 その手は、いつも温かかった。


 午後になると、母娘は部屋で刺繍を楽しむ。


 エレオノーラは、小さな布と針を用意した。


「今日は、お花を縫ってみましょうか」


「うん!」


 エリシアは一生懸命に針を動かす。


 糸は曲がり、花びらもいびつな形になってしまう。


 それでもエレオノーラは嬉しそうに微笑んだ。


「とても上手ですよ」


「ほんと?」


「ええ」


「少しずつ練習すれば、もっと素敵になります」


 褒められたエリシアは、照れくさそうに笑った。


 刺繍の後は、絵本の時間。


 エレオノーラの膝の上へ座り、優しい声で語られる物語に耳を傾ける。


 その時間が、エリシアは大好きだった。


「お母さま」


「つづき!」


「ふふっ」


「もう一冊、読んであげますね」


 何冊読んでも飽きることはない。


 母の声を聞いているだけで、心がぽかぽかと温かくなった。


 ある日。


 二人は厨房へ向かった。


「今日は、一緒にお菓子を作りましょう」


「やったー!」


 小さな手で生地を混ぜる。


 粉が鼻についてしまい、エリシアはくしゃみをした。


「ふふっ」


「お顔が真っ白ですよ」


 エレオノーラがハンカチで優しく拭ってくれる。


 焼き上がったお菓子からは、甘く香ばしい香りが広がった。


「おいしい!」


「たくさん食べてくださいね」


 二人は顔を見合わせ、幸せそうに笑った。


 帰り道。


 石畳で小さくつまずく。


「あっ」


 ころん。


「いたぁ……」


 エリシアの瞳に涙が浮かぶ。


 するとエレオノーラはすぐに駆け寄り、そっと抱き上げた。


「大丈夫」


「びっくりしただけですよ」


 優しく頭を撫でる。


 温かな胸に抱きしめられると、不思議と痛みは消えていった。


「えへへ」


「もう泣き止めましたね」


「うん!」


 エレオノーラは愛おしそうに娘を抱き締める。


「エリシアは、本当に優しい子ね」


「その優しさを、いつまでも大切にしてください」


 エリシアは意味は分からないながらも、嬉しそうに頷いた。


「うん!」


 その日の夜。


 エレオノーラはエリシアを優しく抱き寄せる。


 小さな頭をそっと撫でながら、子守歌を口ずさんだ。


 心地よい歌声に包まれ、エリシアの瞼はゆっくりと閉じていく。


「おやすみなさい、エリシア」


「おやすみ、お母さま」


 母の温もりに包まれながら、エリシアは安心しきった表情で眠りについた。


 この腕の中にいる限り、何も怖いものはない。


 幼いエリシアは、そう信じていた。

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