第106話 竜影流の真髄
数日後。
黒竜城・修練場。
エリシアは妖精眼鏡を掛け、ゼノンの前へ立っていた。
妖精が見えるようになった今だからこそ。
もう一度、竜影流をこの目で見たい。
その願いに応え、ゼノンは静かに木剣を構えた。
「よく見ておくのじゃ」
「今日のお前には、竜影流の本当の姿が見える」
静かに一歩踏み出す。
その瞬間。
エリシアの世界が変わった。
「……!」
世界中を漂う魔粒子が、一斉に動き始める。
火。
水。
風。
土。
四色の魔粒子は、まるで大河のような流れとなってゼノンの周囲へ集まっていく。
その流れを追いかけるように、妖精たちも楽しそうに空を舞っていた。
ゼノンは木剣を振るう。
その剣筋に呼応し、魔粒子の流れが変化する。
無理に支配することはない。
自然の流れへ寄り添い、ほんの僅かに導くだけ。
すると、一部の魔粒子が静かに融合を始めた。
暴走することなく。
妖精たちが見守る中、美しく調和しながら一つの力へ変わっていく。
生まれた融合エネルギーがゼノンの全身を巡る。
身体能力は飛躍的に高まり、その一挙手一投足から圧倒的な力が溢れ出した。
一方で、融合しなかった魔粒子は木剣へ集まり、自在に属性を変えていく。
炎を宿し。
風を纏い。
水を巡らせ。
土の力を宿す。
まるで人間の魔法剣のような光景だった。
しかし、その本質はまったく違う。
魔法を発動しているのではない。
世界を流れる魔粒子そのものを直接導いているのだ。
演武が終わる。
静寂が修練場を包んだ。
エリシアは言葉を失う。
今まで見えていたのは、剣だけだった。
けれど、本当の竜影流は違った。
世界を流れる魔粒子を感じ。
その流れへ寄り添い。
必要な魔粒子は融合させ、自らの力とする。
必要な魔粒子は剣へ導き、自在に属性を宿す。
すべてが、一つの流れとして繋がっていた。
「そうか……」
エリシアは妖精たちを見つめながら、小さく呟く。
「竜影流は……」
「妖精さんみたいに、魔粒子を導く武術なんだ」
ゼノンは満足そうに頷いた。
「その通りじゃ」
「妖精は本能で魔粒子を導く」
「そして竜影流とは、その理を術として極めた武術」
「術者自身が妖精誘導法となり、魔粒子を自在に導くのじゃ」
ゼノンは穏やかに続ける。
「故に、妖精がおらずとも竜影流は成り立つ」
「じゃが、妖精と魔粒子の流れが見えることで、その理を理解することは遥かに容易になる」
エリシアは力強く頷いた。
「はい!」
ようやく。
エリシアは竜影流という武術の真髄へ、一歩近づくことができたのだった。




