第105話 喜びの報告
妖精眼鏡完成から数日後。
エリシアとクロノスは黒竜城へ戻っていた。
応接室には、黒竜王ゼノン。
王妃セレーネ。
第一王子ノクス。
第一王女アステリア。
家族全員が揃っている。
部屋へ入るなり、エリシアは嬉しそうに駆け寄った。
「お父様!」
「お母様!」
「お兄様!」
「お姉様!」
「妖精さんが見えるようになりました!」
そう言って、大切そうに妖精眼鏡を掲げる。
一瞬、部屋が静まり返る。
「……何?」
ゼノンが思わず目を見開いた。
「本当か?」
「はい!」
エリシアは満面の笑みで頷く。
「妖精さんが、ちゃんと見えます!」
その様子を見ていたクロノスが、嬉しそうに口を開いた。
「わしの見立て通りじゃ」
「エリシアは、とんでもない大発明を成し遂げた」
ゼノンたちは静かに耳を傾ける。
クロノスは妖精眼鏡を手に取りながら続けた。
「この妖精眼鏡によって、人間でも妖精を見ることができるようになった」
「それだけではない」
「研究を進める中で、視神経へ情報を伝達する理論を確立した」
「その応用によって、失明治療にも成功したのじゃ」
その一言に、家族全員が息を呑む。
「失明治療……?」
ノクスが驚きの声を漏らす。
クロノスは静かに頷いた。
「ああ」
「病によって何百年も視力を失っていた老竜人が、再び光を取り戻した」
「まだ改良の余地はある」
「じゃが、この研究は多くの命を救うことになるじゃろう」
セレーネは胸へ手を当て、感動したように微笑んだ。
「なんて……素晴らしい研究なのでしょう」
エリシアは慌てて首を横へ振る。
「違います!」
「全部、クロノス様のおかげです!」
「私は何もしていません!」
するとゼノンが笑った。
「エリシア」
「そんなことはない」
クロノスも苦笑しながら頷く。
「いやいや」
「わしには、その発想はなかった」
「妖精を見たい」
「そのお前の願いが、この研究の始まりじゃ」
「そして、何度も新しい発想をくれたのもお前じゃ」
「この発明は、わし一人では決して生まれなかった」
エリシアは照れくさそうに頬を染める。
「えへへ……」
アステリアは嬉しそうに妹を抱き締めた。
「すごいわ!」
「さすが私の妹!」
ノクスも優しく頭を撫でる。
「よく頑張ったな」
セレーネは愛おしそうに二人を見つめる。
「二人とも、本当にお疲れ様でした」
ゼノンは腕を組み、大きく笑った。
「二人で何をこそこそ研究しているのかと思っていたが……」
「まさか、これほどの大発明を成し遂げていたとはな」
クロノスは照れくさそうに頭を掻く。
「まだ終わりではない」
「妖精眼鏡も、失明治療も、さらに改良できるはずじゃ」
そして、どこか楽しそうに笑みを浮かべた。
「さて」
「次は論文をまとめるとするかの」
「世界中の魔導師たちを、驚かせてやらねばならんからな」
その言葉に、一同は思わず笑い声を上げた。
こうして。
一人の少女の「妖精さんに会いたい」という願いから始まった研究は、世界を変える大発明へと実を結んだのだった。




