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捨てられた少女は、黒竜王の娘となる!?  作者: Atelier Lotus


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第104話 希望の眼鏡

 妖精眼鏡が完成してから数日。


 クロノスは宮廷魔導研究所へ籠もり、一人、新たな魔法式と向き合っていた。


 机の上へ置かれた妖精眼鏡を見つめ、小さく呟く。


「もし……」


「わしの仮説が正しければ」


 妖精眼鏡は、視神経へ魔力情報を送り、脳へ直接認識させる魔導具。


 ならば。


 視神経へ伝える情報は、魔粒子だけとは限らない。


 光。


 色。


 形。


 あらゆる視覚情報も伝達できるのではないか。


 クロノスは静かに目を閉じた。


「病によって眼を失うこと」


「それは自然の摂理」


「誰にも覆せぬ運命じゃと、わしは考えておった」


 病。


 老い。


 失明。


 それらは自然の流れ。


 人が抗うべきものではない。


 まして。


 神が作りたもうた眼を、人が作り出すなど。


 たとえ可能であったとしても、それは神への冒涜である。


 クロノスは、長い年月そう信じ続けてきた。


 しかし。


「眼を作る必要はない」


「見るための情報を届ければよいのじゃ」


 その発想は。


 妖精眼鏡の研究がなければ、決して辿り着けなかった答えだった。


     ◇


 数日後。


 宮廷魔導研究所へ、一人の老竜人が訪れていた。


 数百年前。


 病によって光を失った老人だった。


 クロノスは深く頭を下げる。


「まだ仮説段階じゃ」


「成功する保証はない」


「それでも、試していただけるか」


 老竜人は穏やかに微笑む。


「もちろんです」


「何百年も見えなかったのです」


「今さら失うものなどありません」


「先生を信じます」


 クロノスは静かに頷き、妖精眼鏡を老竜人へ掛けた。


 魔法式が起動する。


 研究室は静寂に包まれた。


 誰もが固唾を呑み、結果を見守る。


 ゆっくりと。


 老竜人の瞼が震えた。


 そして。


 閉ざされていた瞳が、大きく見開かれる。


「……見える」


 その一言に、研究室の空気が止まった。


 老竜人は震える手を前へ伸ばす。


 その先には、一人の老婦人。


 何百年もの間、一度も見ることのできなかった最愛の妻が立っていた。


 老竜人の瞳から、大粒の涙が溢れ落ちる。


「見える……」


「また……」


「また妻の顔が見える……」


 妻も涙を流しながら夫の手を握る。


「あなた……」


「本当に見えているの?」


「ああ……」


「ああ……」


「何百年ぶりだろうな」


「お前の笑顔を見るのは……」


 二人は静かに抱き合った。


 その姿を見つめ、研究員たちも思わず目頭を押さえる。


 エリシアも涙を浮かべながら、小さく微笑んでいた。


 妖精を見るために始まった研究。


 その副産物は。


 光を失った人々へ、再び希望を届ける魔導具となった。


 クロノスは妖精眼鏡を静かに見つめる。


「まさか……」


「こんな未来が待っておるとはのう」


     ◇


 その知らせは、瞬く間に黒竜国中へ広がった。


「病で失明した老人が見えるようになったらしい」


「妖精眼鏡が、人の光を取り戻したそうだ」


「クロノス様だけではない」


「王家の養女、エリシア様も共に研究されたそうだ」


 人々は驚き、そして語り合った。


「妖精を見るためだけではなかったのか……」


「多くの命を救う研究だったのだな」


「人間だからと決めつけるべきではなかったのかもしれん」


 あの日、王家へ人間の養女が迎えられたことへ不安を抱いていた者たちも。


 少しずつ、その見方を変え始めていた。


 誰か一人の願いから始まった研究は。


 やがて、多くの人々へ希望を届ける、大きな光となっていくのだった。

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