第103話 新たな可能性
妖精たちとの触れ合いを終えたエリシアは、妖精眼鏡をそっと外した。
大切そうに両手で包み込み、クロノスへ差し出す。
「クロノス様」
「ありがとうございました」
クロノスは優しく微笑む。
「どうした、急に改まって」
エリシアは少し照れくさそうに笑った。
「だって……」
「この眼鏡は、私のために作ってくださったんですよね」
妖精眼鏡を見つめながら続ける。
「竜族の皆さんは、最初から妖精さんが見えます」
「だから、この眼鏡は必要ありません」
「私だけのために、何か月も一緒に研究してくださって……」
小さく頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
その言葉に、クロノスは思わず笑みを漏らした。
「礼を言うのは、わしの方じゃ」
「久しく忘れておったよ」
「これほど夢中になって研究したのは、いつ以来かのう」
失敗しては考え。
考えては試す。
その繰り返しの日々。
決して楽ではなかった。
それでも、不思議と苦ではなかった。
「楽しかったぞ」
「本当に楽しかった」
エリシアも嬉しそうに笑う。
「私もです!」
「毎日、新しいことを知れて、とても楽しかったです!」
二人は顔を見合わせ、自然と笑みを浮かべた。
その時だった。
クロノスの視線が、妖精眼鏡で止まる。
「……いや」
小さく呟く。
「待てよ」
エリシアは首を傾げた。
「クロノス様?」
クロノスは妖精眼鏡をじっと見つめる。
そして、何かを考えるように目を閉じた。
「この眼鏡は……」
「視神経へ魔粒子の情報を送り、脳へ認識させる魔導具じゃ」
次の瞬間。
クロノスは勢いよく顔を上げた。
「そうか!」
「そういうことか!」
エリシアは驚いて目を丸くする。
「ど、どうしたんですか?」
クロノスは興奮を隠せない様子で研究机へ駆け寄り、新しい羊皮紙を広げた。
「もし視神経へ情報を送れるのなら……」
「送る情報は、魔粒子だけとは限らん!」
エリシアは息を呑む。
「えっ……」
クロノスのペンが止まらない。
「光。」
「色。」
「形。」
「すべて視神経へ伝えられるとしたら……」
その瞳が大きく見開かれる。
「ひょっとすると……」
「これは、とんでもない発見になるかもしれん」
研究室には再び、新たな研究の始まりを告げる静かな熱気が満ち始めていた。




