第102話 同じ景色
妖精眼鏡完成から数日後。
宮廷魔導研究所。
最後の調整を終えたクロノスは、妖精眼鏡をエリシアへ差し出した。
「基本的な性能は問題ない」
「後は、お前自身が違和感なく使えるよう細かな調整をするだけじゃ」
エリシアは嬉しそうに頷く。
「はい!」
ゆっくりと妖精眼鏡を受け取り、そっと掛ける。
クロノスは静かに魔法式へ魔力を流した。
「起動」
次の瞬間。
エリシアの世界が、一変した。
研究室いっぱいを、小さな妖精たちが飛び回っている。
窓辺で楽しそうに笑う妖精。
本棚の上で遊ぶ妖精。
机の上を駆け回る妖精。
風の妖精シルフが軽やかに宙を舞い。
火の妖精サラマンダーは、小さな炎を揺らしながら笑っている。
妖精たちはエリシアへ気付くと、一斉に振り返った。
そして。
にこっと笑って、小さな手を振る。
「こんにちは!」
その瞬間。
エリシアの瞳が大きく見開かれた。
「わぁ……!」
肩へ降り立つ妖精。
頭の上へちょこんと座る妖精。
手のひらへ舞い降りる妖精。
夢中で妖精たちを見つめながら、思わず声を上げる。
「見える……!」
その声は少しずつ弾み。
やがて満面の笑顔へ変わる。
「見える!」
「見えるよ、クロノス様!」
「妖精さんだ!」
嬉しさを抑え切れず、その場でぴょんと飛び跳ねる。
妖精たちも楽しそうに笑いながら、エリシアの周りをくるくると飛び回った。
エリシアも笑顔で手を振る。
「こんにちは!」
「こんにちは、妖精さん!」
妖精たちも元気いっぱいに手を振り返す。
その光景を見つめながら、クロノスは優しく目を細めた。
「これが、有身精霊たちの見ている世界じゃ」
エリシアは妖精たちから目を離さないまま、小さく頷く。
「すごい……」
「こんなに綺麗だったんだ……」
妖精たちは今日も笑い。
空を飛び。
木々で遊び。
人知れず、この世界を支えていた。
エリシアは胸へ手を当て、嬉しそうに微笑む。
「私……」
「やっと皆さんと同じ景色が見られました」
その笑顔は、五歳の少女らしい、無邪気な喜びに満ちていた。




