第100話 改良
試作品第二号の実験から数日。
宮廷魔導研究所では、妖精眼鏡の改良が続いていた。
課題は明確だった。
妖精は見えた。
しかし、その姿を捉えられたのは、ほんの数秒だけ。
魔法式が視神経へ送り込む情報量に耐え切れず、魔力伝達が途中で途切れてしまうのだ。
クロノスは試作品を手に取り、静かに頷く。
「方向性は間違っておらぬ」
「後は精度を高めるだけじゃ」
二人は再び机へ向かった。
魔法式を書き換える。
魔力伝達経路を見直す。
視神経との同期率を調整する。
魔力消費を抑えるため、術式を何度も組み直す。
さらに、魔水晶そのものにも改良を加えていく。
純度の異なる魔水晶。
結晶構造の違う魔水晶。
研磨方法。
レンズの厚み。
曲率。
一つ変更しては実験。
結果を記録し、原因を考察する。
そして、また改良する。
地道な作業が、来る日も来る日も続いた。
その頃には、エリシアもすっかり研究の一員となっていた。
「クロノス様」
エリシアは一枚の羊皮紙を差し出す。
「魔法式を少し整理してみました」
「魔力が分散しないように、ここを一本にまとめたらどうでしょう?」
クロノスは図面へ目を通し、思わず目を見開いた。
「ほう……」
「この発想はなかったのう」
すぐに魔法式を書き直す。
実験。
しかし、まだ成功しない。
それでも二人は落胆しなかった。
「今度は魔水晶を変えてみましょう」
「うむ」
「こちらの結晶構造の方が魔力伝達には向いておるかもしれん」
失敗するたびに、新しい課題が見つかる。
課題が見つかるたびに、新しい改良案が生まれる。
気付けば、研究室には何十本もの試作品が並んでいた。
クロノスは、その光景を見渡しながら穏やかに笑う。
「最初は、わし一人で進める研究になると思っておった」
「じゃが、違ったようじゃな」
エリシアは首を傾げる。
「え?」
「今では、お前も立派な共同研究者じゃ」
その言葉に、エリシアは少し照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます」
「でも……」
「私も妖精さんに会いたい一心で考えていただけです」
クロノスは優しく頷く。
「それで十分じゃ」
「研究とは、知りたいという気持ちから始まるものじゃからな」
エリシアも笑顔で頷いた。
「完成するまで、一緒に頑張りましょう」
「ああ」
「あと一歩じゃ」
二人は再び机へ向かう。
積み重ねた失敗は、決して無駄ではない。
一つひとつの改良が、妖精眼鏡を完成へと近づけていた。




