巫女になります
翌日。
二人は村へ到着した。
だが。
「……」
人が少ない。
家はある。
畑もある。
なのに歩いている人がほとんどいない。
活気もなかった。
レイは周囲を見回した。
「静かですね」
「そうだな」
バンも眉をひそめる。
祭りをやっている村には見えなかった。
しばらく歩く。
やがて道端で老人を見つけた。
レイは駆け寄る。
「すみません」
老人が顔を上げた。
「ん?」
「クリスタルにまつわるお祭りをしていると聞いたんですが」
老人は目を細めた。
そして苦笑する。
「昔の話じゃよ」
レイが固まる。
「昔?」
「人がおらんくなった」
老人は村を見回した。
「若い者は町へ出ていった」
「……」
「巫女をやる娘もおらん」
老人は寂しそうに笑う。
「だから祭りはもう何年もやっとらんよ」
沈黙。
レイは俯いた。
「そうですか……」
小さな声だった。
「この村にクリスタルはありますか?」
老人は少し考えた。
「ああ」
レイの目が輝く。
「本当ですか?」
「あるとは思う」
だが。
老人は首を振った。
「見ることはできん」
レイが固まる。
「なぜですか」
「祠の奥にあるからじゃ」
老人は遠くの山を指差した。
「だが、あの祠は巫女しか開けられん」
「巫女?」
「ああ」
老人は頷く。
「昔は祭りの日に巫女が祈りを捧げておった」
「今は?」
「おらん」
老人は苦笑した。
「だから何年も開いておらんよ」
沈黙。
レイは俯いた。
やっと見つけた手掛かりだった。
バンが肩を竦める。
「諦めようぜ」
「……」
「巫女なんていねぇし」
「……いえ」
レイが顔を上げる。
真っ直ぐだった。
「私が巫女になります」
沈黙。
老人が瞬きをする。
バンも固まった。
「……女装する訳?」
「……いえ」
レイは静かに髪紐へ手を伸ばした。
バンは眉をひそめる。
何をする気だ。
髪紐が解かれる。
さらりと。
金色の髪が肩を流れ落ちた。
風が吹く。
長い髪が揺れた。
老人が目を見開く。
バンは言葉を失った。
「ごめんなさい。バン」
静かな声だった。
「あなたに嘘をついていました」
「……」
「私は男ではありません」
バンは瞬きをする。
頭が追いつかない。
レイを見る。
長い金髪。
風に揺れる髪。
どう見ても女だった。
「お前……」
声が掠れた。
「女だったのか?」
レイは小さく頷く。
「……はい」
「……」
バンはしばらく黙っていた。
「私の本当の名前は、レイナと言います」
レイナ。
初めて聞く名前だった。
「……そっか」
小さく呟く。
「そうだったのか」
レイナは不安そうに見上げた。
「ごめんなさい」
「いや」
バンは首を振る。
そして胸を撫で下ろした。
「よかった……」
レイナが目を瞬く。
「え?」
バンは慌てて咳払いした。
「いや」
頭を掻く。
「何でもねぇ」
「……」
レイナは首を傾げた。
意味が分からないらしい。
バンは視線を逸らす。
言える訳がない。
男じゃなかった。
だから。
自分がおかしくなった訳じゃなかった。
なんて。
「嫌いになりましたか?」
「全然」
即答だった。
レイナが少し目を見開く。
「むしろ……」
そこまで言って止まる。
レイナは首を傾げた。
「嬉しいですか?」
バンが固まる。
「……まぁな」
照れ隠しみたいに頭を掻く。
レイナはほっとしたように微笑んだ。
「よかった」




