山小屋
再び森の中。
レイナがウロウロする。
「足元気をつけろって――」
言い終わる前だった。
「あっ」
レイが石につまずく。
そのまま転んだ。
「いた……」
「だから言っただろ」
バンはため息を吐く。
レイは気まずそうに視線を逸らした。
「すみません」
「見せてみろ」
バンがしゃがみ込む。
レイは少し驚いた顔をした。
「大丈夫です」
「大丈夫じゃねぇだろ」
膝を見る。
擦り傷。
血が滲んでいた。
「ったく」
バンは慣れた手つきで布を巻く。
レイは黙って見ていた。
「これでよし」
バンが立ち上がる。
「ありがとうございます」
「次から気をつけろ」
「はい」
⸻
レイは自分の足を見る。
包帯。
それから遠ざかるバンの背中。
不思議だった。
旅に出てから。
親切にされた記憶がほとんどない。
騙されて。
笑われて。
利用されて。
それが当たり前だった。
なのに。
「……」
胸の奥が少しだけ温かかった。
「バンは優しいですね」
「は?」
確かに。
男を心配して着いて行くとか。
こんなの、俺じゃない。
……調子狂うな。
コイツといるといつもそうだ。
普段ならやらないことばっかしてる。
……俺は女が好きなのに。
その時。
森の奥から悲鳴が聞こえた。
「行くぞ!」
「はい!」
2人は走った。
悲鳴の主は若い女性だった。
バンが魔物を追い払う。
女性はほっと息を吐いた。
「助かりました……」
「気にすんな」
バンが笑う。
女性の頬が赤くなる。
「素敵……」
「ん?」
「い、いえ!」
女性は慌てて目を逸らした。
バンはニヤリと笑う。
「やっぱりコレだよな……」
「?」
レイが首を傾げる。
「何でもねぇ」
やっぱり。
俺は女が好きだ。
男じゃない。
そうだ。
そのはずだ。
「お礼をしたいんです」
女性が頭を下げた。
「家へ来ませんか?」
「お?」
バンの目が輝く。
「行く」
即答だった。
「早いですね」
「断る理由ねぇだろ」
レイは二人を見た。
女性は嬉しそうだった。
バンも嬉しそうだった。
「……」
良いことのはずなのに。
なぜか少しだけ気になった。
山小屋。
女性は笑顔で扉を開けた。
「どうぞ」
バンは部屋を見回す。
綺麗すぎる。
生活感がない。
それに。
森の奥に一人暮らし。
妙だ。
「……」
レイは気付いていないらしい。
普通に椅子へ座っていた。
「美味しい……」
レイはスープを飲んだ。
女性は嬉しそうに笑う。
「お口に合ったなら良かった」
「はい」
レイは頷いた。
少し迷う。
それから口を開いた。
「クリスタルを探しているんですけど……」
女性は少し考えた。
「そういえば」
レイが身を乗り出す。
「この先の村で、クリスタルにまつわるお祭りをしているって聞いたことがあるわ」
「本当ですか?」
「ええ」
女性は微笑んだ。
「もう随分昔から続いているお祭りだけど」
バンが眉をひそめる。
「随分昔?」
「百年くらいかしら」
バンが吹き出した。
「百年?」
「ええ」
「よく覚えてんな」
女性は首を傾げた。
「そんなに変かしら?」
バンは笑った。
「いや、普通は百年前の祭りなんて知らねぇよ」
女性も笑った。
「そうね」
「祭りねぇ……」
バンは肉を頬張る。
「どう思いますか?」
レイが聞く。
「どうせ観光客向けだろ」
即答だった。
「でも」
「行くんだろ?」
「行きます」
「だろうな」
⸻
夜。
レイは眠っている。
バンは目を閉じたまま天井を見ていた。
予感がしていた。
来る。
そんな気がした。
⸻
ギィ……
静かに扉が開く。
女性が入ってくる。
月明かりの中で微笑んでいた。
一瞬ベッドで寝ているレイを見て、止まる。
「こっちじゃないわ」
「そうだ」
バンは起き上がる。
「あんたの狙いは、俺だろう?」




