守りたい人
ぐぅぅ……
小さな音が響いた。
レイが固まる。
バンは吹き出した。
「腹減ってんのか」
「……お金なくて、何も食べてなくて」
少し恥ずかしそうだった。
「飯食いに行くか」
レイの表情が明るくなる。
「はい」
⸻
町の食堂。
バンは肉とパンを注文した。
レイも同じものを頼む。
料理が運ばれてくる。
「いただきます」
レイは静かに手を合わせた。
そして食べ始める。
バンは何気なく見ていた。
音を立てない。
姿勢も崩れない。
ナイフとフォークの使い方も慣れている。
まるで貴族みたいだ。
「どうしました?」
レイが顔を上げる。
「いや」
バンはパンをかじる。
旅人ならもっとガツガツ食う。
孤児ならなおさらだ。
少なくとも自分はそうだった。
なのに。
目の前の少年は違う。
「お前さ」
「はい」
「本当に何者なんだ?」
レイは少し考えた。
それから答える。
「レイです」
「聞き方が悪かったな」
バンは頭を抱えた。
レイは首を傾げる。
「?」
「……いや、いい」
やっぱりコイツ。
何かある。
「なぁ」
レイが顔を上げる。
「はい」
「何でクリスタル探してんだ?」
レイは少し黙った。
バンは肉を口に運ぶ。
どうせ伝説がどうとか。
世界を救うとか。
そんな話だろうと思った。
「守りたい人がいるんです」
バンの手が止まった。
「守りたい人?」
「はい」
レイは頷く。
それ以上は話さない。
バンはしばらくレイを見る。
真面目な顔だった。
嘘をついているようには見えない。
「ふーん」
興味なさそうに返す。
だが。
頭の片隅に残った。
守りたい人。
恋人か。
家族か。
友達か。
知らない。
でも。
クリスタルなんて馬鹿げた話を本気で追いかけている理由としては、
少しだけ納得できた。
食事を終える。
店主が皿を片付けていく。
食堂の隅では魔導映像機が動いていた。
ニュースらしい。
バンは何となく眺める。
『それでは次のニュースです――』
「バン」
レイが口を開く。
「ん?」
「行きましょう」
妙に急いでいるように見えた。
「……ああ」
バンは立ち上がる。
レイは一度も画面を見なかった。
ーー
夜。
部屋の明かりは消えていた。
窓の外では虫の声が聞こえる。
バンはベッドに寝転んでいた。
眠れない。
向かいのベッドから衣擦れの音がした。
レイだ。
何をしているのかと思った。
だが見る気はない。
男の寝顔なんて興味もない。
「……」
静寂。
その中で。
小さな声が聞こえた。
「お母様……」
バンは目を開く。
だが振り返らない。
レイは気づいていないらしい。
何かを握り締める音。
そして。
それ以上は何も言わなかった。
バンは天井を見上げた。
守りたい人。
昼間の言葉を思い出した。
恋人かと思った。
違ったらしい。
家族か。
眠れない理由が、
また一つ増えた。




