妹みたいなもの
「つう訳で……」
バンはちらりとミミィを見た。
「コイツも仲間に入れてもいいか?」
翌朝。
レイナたちに合流するなり、バンはそう尋ねた。
「よろしくお願いします!」
ミミィがぺこりと頭を下げる。
「ええ、もちろん助かるわ」
レイナは柔らかく微笑んだ。
「人数は多い方が心強いもの」
「ありがとうございます!」
ミミィの表情がぱっと明るくなる。
しかし。
「反対です」
クロードが即座に口を開いた。
「……理由を聞いてもいいか?」
バンが眉をひそめる。
「守る対象が増えます」
淡々とした声だった。
「今回の相手は、貴族を狙う危険人物です。戦えない者を同行させるべきではありません」
「……俺が守る」
バンがため息をつく。
「だからいいだろ」
「失礼ですが、貴方の腕ではそこまでの余裕はないでしょう」
「お前、本当に失礼だな……」
ムッとしたバンを、ミミィが止めた。
「私、ちゃんと役に立つよ」
「ほう」
クロードがミミィを見る。
「町の人とも仲いいし、噂を集めるのも得意だし」
「情報収集なら私一人でも十分です」
「むっ」
ミミィは頬を膨らませる。
だが、すぐに何かを思いついたように人差し指を立てた。
「でも、あの人は私に会いに来ると思うよ」
クロードの表情が変わった。
「……火のクリスタルを持っていた男ですか?」
「うん」
ミミィは頷く。
「毎日のように店に来てたし、クリスタルあげるから付き合ってって言ってたもん」
「…………」
「昨日は逃げちゃったけど、私にはまだ用があると思う」
ミミィは胸を張った。
「だから、私がいた方が見つけやすいでしょ?」
クロードは答えなかった。
否定できないらしい。
バンが得意げに口角を上げる。
「ほらな」
「何がです」
「コイツがいた方が役に立つじゃねぇか」
「危険であることに変わりはありません」
「だから俺が——」
「貴方の腕では——」
「またそれかよ!」
「二人とも」
レイナが苦笑する。
そして、ミミィへ視線を向けた。
「ミミィさん」
「はい?」
「危険かもしれないわ。それでも、手伝ってくれる?」
「もちろん!」
迷いのない返事だった。
「私も一緒に行きたいから来たんだもん」
「……ありがとう」
レイナは微笑んだ。
それからクロードを見る。
「彼女にも役目はあると思うわ」
「ですが——」
「あの男と接点があるのはミミィさんだけ。それに、ミミィさんも回復魔法が使えるもの」
昨夜の火事を思い出す。
負傷者は多かった。
もし、また同じことが起きたら。
「二人で治療できれば、私一人で対応するより安心だわ」
クロードはしばらく黙っていた。
やがて、小さく息をつく。
「……承知しました」
完全に納得したわけではない。
それでも、レイナの決定には従う。
「やった!」
ミミィは嬉しそうにバンの腕へ飛びついた。
「バン兄、一緒だね!」
「近い近い」
バンは苦笑しながら、ミミィの肩を押し返す。
その様子を見たレイナは。
ほんの少しだけ、胸の奥がちくりと痛んだ。
(……仲がいいのね)
無意識に視線を落とす。
そんなレイナの横顔を見て。
クロードだけが、その小さな変化に気付いていた。
(姫様……)
何も言わず、そっと前を向く。
しばらく歩いてから。
レイナは、何気ないふうを装って口を開いた。
「ミミィさんは……バンの恋人なの?」
「えっ!?」
ミミィが顔を赤くする。
「ちが——」
「違う違う!」
バンが即座に否定した。
「コイツは妹みてぇなモンだから」
「妹……?」
レイナが小さく繰り返す。
「ああ。昔から知ってるし、放っとけねぇっつうか」
「バン兄、私のこと子供扱いするんだよ」
ミミィは不満そうに頬を膨らませた。
「実際、ガキだろ」
「もう子供じゃないもん!」
「はいはい」
バンは軽く笑いながら、ミミィの頭をくしゃりと撫でた。
その手つきは、やはり優しかった。
レイナの胸が、また小さく痛む。
恋人ではない。
そう分かって。
少し安心したはずなのに。
(妹みたいに、大切な人なのね)
「でも……」
気付けば、口にしていた。
「血の繋がった妹ではないのでしょう?」
「そうだけど」
バンは不思議そうにレイナを見る。
「女として見たことねぇし」
「…………」
「どうかしたか?」
「いいえ」
レイナは微笑んだ。
「何でもないわ」
けれど。
胸の奥のもやもやは、消えなかった。
そんなレイナを、クロードは黙って見つめていた。
(恋人ではないと聞いて、安心なさった)
それなのに。
妹のように大切な存在だと知れば、今度はそれが気になる。
(姫様……)
クロードはそっと息を吐いた。




