また会ったな
「今朝から、胸が痛くて……」
「胸が?」
「ええ」
レイナは胸元へ手を当てた。
「バンのことを考えると、痛くなるの」
クロードの表情が止まる。
「……それは」
「病気でしょうか?」
真剣に尋ねられ、クロードはしばらく黙り込んだ。
「ほかに苦しいところは?」
「いいえ」
「では、なぜ胸が痛むのです?」
「分からないけれど……」
夢の中で、バンがミミィの肩を抱いていた姿を思い出す。
胸の奥が、また痛んだ。
「バンがあの女の子に笑いかけているところを想像したら……」
クロードは額へ手を当てた。
「レイナ様」
「何?」
「それは、おそらく病ではありません」
「では、何なの?」
クロードは答えなかった。
ただ、レイナの顔をしばらく見つめたあと、諦めたように深く息を吐く。
「……なりません」
「え?」
「いいですか。レイナ様は、アストリア王国のたった一人の王女です」
クロードは言い聞かせるように続けた。
「あの者は、ただの旅人。くれぐれもお忘れなく」
「……? 分かったわ」
その時だった。
「火事だーーっ!」
遠くから叫び声が響く。
人々が一斉に走り出した。
「また火事だ!」
「貴族様の屋敷だ!」
クロードの表情が変わる。
「レイナ様!」
レイナは迷わず頷いた。
「行きましょう!」
二人は、騒ぎの起きた方角へ駆け出した。
ーー
炎が空を赤く染める。
燃え盛る屋敷。
黒い煙が立ち昇り、悲鳴が辺りに響いていた。
貴族たちは、使用人に支えられながら逃げ惑っている。
その中で。
一人の男だけが、炎を見上げて笑っていた。
「ははっ……綺麗だ」
バンは息を切らしながら立ち止まった。
「……やっぱり、あんたか」
男が振り返る。
あの夜、火のクリスタルを奪って逃げた男。
やはり見間違いではなかった。
男は口元を歪める。
「また会ったな」
「今度は逃がさねぇ」
バンは腰の剣へ手をかけた。
男は火のクリスタルを握り締める。
炎が渦を巻いた。
「また火をつけやがったな」
「ああ」
男は燃える屋敷へ視線を向けた。
「城の次は、貴族の屋敷だ」
「城……? なんで、そこまで貴族を狙う?」
男は鼻で笑う。
「俺が狙うのは、最初から貴族だけだ」
男はバンをまっすぐ見据えた。
「不公平だと思わねぇか?」
燃え盛る屋敷を見上げる。
「生まれた場所だけで、最初から人生が決まってる」
炎が男の横顔を赤く染める。
「貴族に生まれりゃ、何不自由なく暮らせる。平民に生まれりゃ、一生あいつらに頭を下げて生きる」
男は火のクリスタルを握り締めた。
「そんな身分制度、なくなればいい」
(だからって……ここまでやるか?)
バンは燃える屋敷へ視線を向ける。
逃げ惑う人々。
屋敷で働いていた使用人たちも、煙に巻かれながら必死に走っている。
男は笑って見ていた。
(……イカレてんな)
「ハイハイ。あんたの言いたいことは分かった」
バンは男に向き直す。
「でもここで見逃す訳にはいかない」
男が目を細める。
「あ?」
「そのクリスタル、返してもらうぜ」
バンは剣を抜いた。
「……俺のお姫様が、そいつを欲しがっているんでね」
男がふっと笑う。
「……女のためか。くだらねぇ」
「くだらなくて結構」
「なんだと?」
バンは地面を蹴った。
男が火のクリスタルを掲げる。
赤い光が膨れ上がった。
炎が正面から襲いかかる。
「っ……!」
バンは剣で炎を裂こうとした。
だが、熱が腕を焼く。
「くそっ……!」
足が止まる。
焼けた腕から、煙が上がった。
「バン!」
聞き慣れた声に、思わず振り向く。
レイナが青ざめた顔で立っていた。
「何でここに……」




