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女好きの旅人は、正体を隠した王女を放っておけない  作者: Wataru


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嘘つきの夢

 暗闇の中。


 見覚えのある背中があった。


「待って!」


 レイナは追いかけた。


「バン!」


 呼びかけると。


 バンが足を止める。


 ゆっくり振り返った。


 その目は。


 今まで見たことがないほど冷たかった。


「お前、王女だったんだな」


「……ごめんなさい」


 レイナは唇を噛んだ。


「最初は男だって言ってた」


 淡々とした声。


「王女だってことも隠してた」


「それは……」


「何度、俺を騙せば気が済むんだ?」


 胸の奥が痛む。


「あなたに嫌われたくなかったの」


 必死に言葉を絞り出す。


「だから、言えなかったの」


 バンはしばらくレイナを見つめていた。


 けれど。


 やがて、視線を逸らす。


「……嘘つき」


 それだけ言って。


 背を向けた。


「待って!」


 レイナは追いかける。


「ごめんなさい、バン!」


 けれど。


 どれだけ走っても、背中に追いつけない。


「待ってください!」


 手を伸ばす。


 その時。


 バンの隣に、ミミィが現れた。


「バン兄」


 ミミィが笑う。


 バンは何も言わず、その肩を抱いた。


「バン……?」


 二人の背中が遠ざかっていく。


 段々と。


 闇の中へ消えていく。


「待って……」


 視界が滲む。


「ごめんなさい」


 声が震える。


「ごめんなさい、バン……」


「――レイナ様!」


 誰かの声が聞こえた。


「レイナ様!」


 レイナは、はっと目を開けた。


 見慣れない天井。


 すぐそばには、心配そうな顔をしたクロードがいた。


「……夢?」


「うなされていました」


 クロードは眉を寄せる。


「大丈夫ですか?」


 窓の外は、すでに明るくなっていた。


 朝。


 昨夜泊まった宿屋の一室。


 レイナはゆっくり身体を起こした。


「私……」


 胸へ手を当てる。


 まだ。


 夢の中で感じた痛みが残っていた。


「……あの旅人の夢ですか?」


 レイナは答えなかった。


 けれど。


 胸元の布を、ぎゅっと握り締める。


「……やっぱり、私」


 夢の中で遠ざかっていった背中を思い出す。


「バンに謝りたい」


「もう謝罪したではありませんか」


「でも、伝えられなかったことがあるの」


 レイナは顔を上げた。


「もう一度だけ、きちんと謝りたい」


 クロードは黙ってレイナを見つめた。


「会ったところで、以前と同じ関係に戻れるとは限りません」


「分かっています」


「また拒まれるかもしれません」


 胸が痛んだ。


 それでも。


 レイナは頷いた。


「それでも、謝りたいの」


 しばらくして。


 クロードは小さく息を吐いた。


「……分かりました」


 レイナの表情が明るくなる。


「ただし、私も同行します」


「ありがとう、クロード」


 レイナは胸へ手を当てた。


 今度こそ。


 バンと、きちんと話したかった。


レイナは再び、バンの仕事場へ足を運んだ。


 辺りを見回す。


 荷物を運ぶ人々の中に。


 バンの姿はなかった。


 夢で見たバンを思い出す。


『……嘘つき』


 胸の奥が、ずきりと痛んだ。


「行きましょう」


「待って。もう少しだけ……」


「いつ戻るかも分かりません」


 クロードは小さく息を吐く。


「夜になったら、あの店へ行きましょう」


「でも……」


「親しくしている女人もいるようですから。店で待っていれば、いずれ現れるでしょう」


 女人。


 夢の中で。


 ミミィの肩を抱いていたバンの姿が、脳裏をよぎる。


 また。


 胸の奥が痛んだ。


「……そうね」


 レイナは胸元をそっと押さえた。


(さっきから、胸が痛いわ……)


(病気かしら)


「……? 大丈夫ですか?」


 クロードが、レイナの異変に気づく。


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