まだ終わってない
バンは何気ない顔で尋ねた。
「……ちゃんと教えたか? クリスタル持ってた客のこと」
「それがさぁ」
ミミィは困ったように笑う。
「昨夜、あの人来なかったんだよね」
「……マジかよ」
思わず眉をひそめる。
「うん!」
ミミィは明るく頷いた。
「だから今日も王女様、店に来ると思うよ」
「……そうか」
まだ。
終わってなかった。
レイナに会えるかもしれない。
バンはホッとしていた。
(……何考えてんだ俺は)
さっさとクリスタルを取り返した方がいいに決まってるというのに。
「会いたい?王女様に」
気づくと。
ニヤニヤしたミミィが顔を覗き込んでいた。
「別にっ」
「さすがのバン兄でも、王女様は無理かぁ」
「だから違うって!!」
ーー
とは言ったものの。
仕事をしていても。
荷物を運んでいても。
頭から離れない。
レイナ。
笑った顔。
困った顔。
怒った顔。
そして。
別れ際に見せた、寂しそうな表情。
「……クソ」
仕事にならない。
頭を振る。
忘れろ。
王女なんだ。
もう関わることはない。
そう思うほど。
レイナのことばかり考えてしまう。
その時だった。
ふと。
旅の途中のことを思い出す。
まだ。
レイナを男だと思っていた頃。
森の中を歩きながら。
レイナが不思議そうに尋ねた。
『……人を好きになるって、どんな気持ちですか?』
あの時。
俺は笑って答えた。
『気づいた時には、好きになってるからな』
その言葉が。
今になって、自分へ返ってきた。
(俺……)
立ち止まる。
(レイナのこと……)
胸の奥が熱くなる。
もう。
言い訳はできなかった。
(好き……なのか)
しばらく動けなかった。
やがて。
バンは苦く笑う。
「……最悪だ」
よりによって相手は王女だ。
俺はただの旅人。
本来なら、言葉も交わさないような身分だ。
たまたま旅をした。
たまたまクリスタルを探した。
ただ、それだけだった。
それ以上を望んじゃいけねぇ。
「どうすりゃいいんだよ……」
その時だった。
「火事だーーっ!!」
町中に叫び声が響いた。
人々が一斉に駆け出す。
「また火事だ!」
「誰か呼べ!」
バンの表情が変わる。
(まさか……)
脳裏に浮かぶ。
火のクリスタルを持っていた男。
「アイツか!?」
考えるより先に。
バンは走り出していた。




