アイツか
「お兄さん、聞いてる?」
女の子が不満そうに頬を膨らませた。
「あー」
バンは曖昧に返事をする。
酒は旨い。
女の子も可愛い。
いつもなら楽しい時間のはずだった。
なのに。
今日は妙に落ち着かない。
「お兄さん?」
「いや」
タバコを咥える。
火をつける。
煙を吐いた。
頭に浮かぶのは、あの変な少年だった。
「野宿したことあんの?」
「ないです」
「金貨は?」
「渡しました」
「クリスタルを探しています」
「……」
バンは眉をひそめる。
何なんだアイツ。
世間知らずで。
騙されやすくて。
放っておいたらすぐ騙される。
まるで子供だ。
煙を吐く。
(アイツ今夜どうすんだ)
宿代は貸した。
今日くらいは大丈夫だろう。
でも。
(明日からは?)
また知らない奴に話しかけて。
また騙されて。
また金を取られて。
そんな姿が簡単に想像できた。
「……」
首を振る。
(知らねぇよ)
男だぞ。
しかも昨日会ったばかりだ。
気にする理由なんてない。
……待てよ。
金がねぇってことは。
「金の代わりに働け」
宿屋の親父にそう言われるかもしれない。
アイツにできるのか?
バンは眉をひそめた。
寝る時間もなく働かされる。
……ありえる。
騙されて借金を背負わされる。
……ありえる。
奴隷商に売られる。
……ありえる。
「……」
煙を吐く。
あの世間知らずだ。
何をやらかしても不思議じゃない。
だから気になる。
ただそれだけだ。
そう自分に言い聞かせる。
目の前には女の子がいる。
酒もある。
なのに。
なんでアイツのことばかり考えてんだ。
「もっと酒持ってこい!」
男が大声で笑った。
「お客さん、景気いいですねぇ」
女の子が甘えた声を出す。
男は金貨を指で弾いた。
「昨日は儲かったからな」
「何したんです?」
「変な坊主がいてさ」
酒を飲む。
「クリスタル探してるって言うから」
バンの手が止まる。
「俺が教えてやるって言ったんだよ」
男が吹き出した。
「そしたら本当に金貨渡してきやがって」
周囲も笑う。
「で、その後どうしたんです?」
「トンズラ」
男はケラケラ笑った。
「馬鹿正直に待ってるんじゃねぇの?」
「ひどーい」
さらに笑い声。
「……」
バンは煙を吐く。
テーブルの上の金貨を見る。
見覚えがあった。
いや。
見覚えがあるというより。
心当たりがあった。
「……アイツか」
バンはため息を吐いた。
男が笑う。
「知り合いか?」
「まぁな」
「なら教えとけよ」
男は酒を煽る。
「騙される方が悪いってな」
周囲が笑う。
バンも小さく笑った。
「違いねぇ」
そう言いながら。
バンは立ち上がった。
「……なぁ、あんた」
「あ?」
「俺と勝負しねぇ?」
男が眉をひそめる。
「は?」
「金が欲しいんだろ」
バンは口の端を上げた。
「勝ったら倍にしてやる」
酒場がざわつく。
男の目が光った。




