再会
「……じゃなかった」
バンはレイナの肩から手を離した。
そして。
片膝をつく。
「レイナ様」
レイナの表情が曇った。
「どうして……」
バンは苦笑する。
「王女だったんだな」
レイナは唇を噛んだ。
「ごめんなさい」
小さな声だった。
「私、ずっとあなたを騙していた……」
バンは首を横へ振る。
「別に」
レイナが顔を上げた。
「俺みたいな奴に言えないのは当たり前だろ」
軽く言った。
だが。
レイナは少しも嬉しくなかった。
その言葉は。
まるで二人の間に、線を引くようだったから。
「違います」
思わず声が強くなる。
「私は――」
言葉に詰まった。
本当は。
クリスタルが見つかったら話すつもりだった。
騙し続けたかったわけではない。
けれど。
今さら何を言っても、言い訳にしか聞こえない気がした。
「……ごめんなさい」
結局。
それしか言えなかった。
バンは困ったように頭をかく。
「だから、気にすんなって」
そして。
少しだけ視線を逸らした。
「俺の方こそ、王女様に偉そうな口きいてたしな」
「そんなこと……」
レイナは首を横へ振る。
バンは立ち上がった。
そのとき。
すぐ後ろから、鋭い視線を感じる。
見ると。
クロードが険しい顔で、こちらを見ていた。
(……俺みたいな奴を、王女に近づけたくねぇって訳か)
バンは苦笑する。
(やれやれ)
「で?」
クロードと目を合わせたまま尋ねた。
「何の用だ?」
レイナが口を開く。
「昨夜、森で火事が起こったのは知っていますよね?」
(……やっぱり、それか)
予想通りなのに。
バンはわずかに目を伏せた。
「クリスタルを持ってる奴がいた」
レイナの目が見開かれる。
「やはり……」
「ああ」
バンは頷いた。
「だから追いかけた」
「その男は?」
「逃げられた」
バンの拳が強く握られる。
「目の前でな」
「でも」
バンは顔を上げた。
「この店の常連らしい」
レイナとクロードを見る。
「また来るはずだ」
「……そうですか」
レイナは小さく頷いた。
「詳しいことは、この店で働いてるミミィが知ってる」
バンは店の奥へ視線を向ける。
「アイツに聞けばいい」
これで。
火のクリスタルのことは伝えた。
あとはレイナとクロードに任せればいい。
(……これで、俺の役目は終わりだ)
バンはレイナを見る。
もう一度会いたいと思っていたはずなのに。
いざ目の前にすると。
何を話せばいいのか分からなかった。
(……もう、顔を見ることもない)
胸の奥が、わずかに痛む。
だが。
バンは気づかないふりをした。
「じゃあな」
そう言って。
レイナに背を向けた。
「待ってください」
レイナはポケットへ手を入れた。
「これを……」
開いた手のひらに。
銀色のピアスが載っていた。
バンの目が見開かれる。
「これ……」
レイナは頷いた。
「昨夜、森で拾いました」
バンはそっと受け取る。
しばらく見つめたあと。
小さく笑った。
「そうか」
そして。
左耳へ着ける。
「ありがとな」
バンは少し目を細めた。
「よく覚えてたな」
レイナは小さく微笑む。
「いつも着けていましたから」
「そうだったか?」
「ええ」
旅の途中。
焚き火をしている時も。
本を読んでいる時も。
女の子と話している時も。
いつも変わらず。
左耳で揺れていた。
「だから、すぐにわかりました」
バンは少し照れくさそうに笑った。
「そうか」
その笑顔を見て。
レイナも、つられるように微笑んだ。
一瞬。
あの頃に戻れたような気がした。
まだクロードが仲間に加わる前。
二人きりで旅をしていた、あの頃に。
けれど。
やはり、あの頃とは違っていた。
レイナが何かを話している。
その声を聞きながら。
バンの視線は、なぜかレイナの唇へ向かっていた。
言葉を紡ぐたびに動く、柔らかな唇。
気づいて。
慌てて目を逸らす。
(……やっぱり、変だ)
鼓動が妙に速い。
「バン?」
レイナの声に、はっとする。
「よかったら、夕食を一緒に取りませんか?」
(何なんだ。これは)
胸の奥が、妙に苦しい。
「あの時のお礼も――」
(……早く離れねぇと)
バンは言葉を遮った。
「俺、用があるから」
レイナの表情が、わずかに曇る。
けれど。
バンは見ないふりをした。
俺は、ただの旅人。
レイナは王女だ。
何も知らなかったから。
あの頃は、同じ目線で話せた。
名前を呼んで。
くだらないことで笑って。
隣を歩くことができた。
けれど。
もう、あの頃とは違う。
「じゃあな」
バンはそれだけ言うと。
今度こそ、レイナに背を向けた。




