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女好きの旅人は、正体を隠した王女を放っておけない  作者: Wataru


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そう思うことにした

仕事を終えた頃には、空が赤く染まり始めていた。


バンは荷物を置くと、いつもの店へ向かった。


扉を開ける。


「いらっしゃい――あ、バン兄」


ミミィが笑顔で振り返る。


「お疲れさま」


「ああ」


バンはいつもの席に腰を下ろした。


ミミィが水を置く。


そして。


バンの顔を覗き込んだ。


「バン兄、なんか元気ない?」


「そんなことねーよ」


「そう?」


「仕事で疲れただけ」


そう言って、水を一口飲む。


だが。


頭に浮かんだのは、昼間に見たレイナの姿だった。


少し伸びた金色の髪。


町の中を歩く横顔。


旅をしていた頃より。


もっと綺麗になった気がした。


(……何考えてんだ)


バンは眉を寄せる。


(俺には関係ねーっつうの)


頭から追い出すように、強く首を振った。


ミミィが不思議そうに見る。


「どうしたの?」


「なんでもねぇ」


「変なバン兄」


ミミィは笑いながら、空いた皿を片付ける。


「あ、そういえば」


「ん?」


「昼間、綺麗な女の人がバン兄に会いに来たよ」


バンの動きが止まった。


「……そうか」


やはり。


昼間、町の中で見たのはレイナだった。


(ここまで来たのか)


だが。


すぐに眉を寄せる。


(なんで俺を探してる?)


レイナが動くとしたら。


クリスタル絡みしかないはずだ。


昨夜の火事。


森で見た男。


取り返せなかった火のクリスタル。


(……あれのことか?)


「あの人、バン兄の何?」


「……旅の途中で知り合っただけだ」


「ふーん」


ミミィはにやりと笑う。


「バン兄、モテモテ?」


「そんなんじゃねーよ」


「本当に?」


「本当だ」


少し強く答える。


ミミィは肩をすくめた。


「でも、すごく会いたそうだったよ」


バンの胸が、不意に大きく鳴った。


(……会いたそうだった?)


だが。


すぐに我に返る。


(オイオイ。何考えてんだ)


相手は王女だぞ。


ただの旅人に会いたいなんて、あるわけがない。


おおかた。


火のクリスタルについて、何か情報を持っていないか探している。


そんなところだろう。


バンは水の入ったグラスへ視線を落とした。


いっそ。


火のクリスタルを見つけたことを伝えてしまおうか。


あと一歩のところで、持っていた男を捕まえられなかったことも。


(……カッコわりぃな)


せっかく見つけたのに。


結局、何も持ち帰れなかった。


バンは小さく息を吐いた。


「……また来るって?」


「夜にバン兄が来るって伝えたから、来るかも」


ミミィが何気なく答える。


バンの指が、グラスの縁で止まった。


「……そうか」


ふと。


笑うレイナの顔が浮かぶ。


「見つけてくれてありがとう」


そう笑う姿まで。


(……まただ)


バンは眉をひそめた。


(なんで、こんなに気になるんだ)


バンは煙草に火をつけた。


レイナといると、どうにも調子が狂う。


最初は金貨目当てで近づいただけだった。


(……適当に金貨をもらって、トンズラするはずだったのに)


危なっかしいレイナを放っておけなくなった。


男が気になるなんて。


そう焦ったこともあった。


『ごめんなさい、バン』


『あなたに嘘をついていました』


『私は男ではありません』


レイナがそう打ち明けたとき。


正直、ホッとした。


女だったから気になっていた。


それだけだったのだと。


そう思えたから。


それなのに。


レイナと出会ってから、一度も女と寝ていない。


機会がなかったわけじゃない。


ただ。


なぜか、その気になれなかった。


自分らしくもない。


バンは煙を吐きながら、眉をひそめた。


(……しばらく女と寝てねぇからだ)


きっと。


そのせいで、レイナを妙に意識しているだけ。


一度、誰かと寝れば元に戻る。


(そうに決まってる)


バンは灰皿に煙草を押しつけた。


「帰るの?」


ミミィが首を傾げる。


「ナンパ」


「また?」


「関係ねぇだろ」


(……元に戻らねぇと)


椅子から立ち上がり、店の扉へ向かう。


取っ手に手を掛けた、その時。


外側から扉が開いた。


「きゃっ」


柔らかな身体が胸元へぶつかる。


バンは反射的に、その肩を支えた。


「悪い。大丈夫――」


言葉が止まる。


金色の髪。


見慣れた顔。


「……バン」


レイナが目を見開いていた。


バンの手は、レイナの肩に触れたままだった。


「……レイナ」


胸が大きく鳴る。


よりによって、今かよ。


バンは心の中で舌打ちした。

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