会う理由
少女の顔が明るくなる。
「バン兄の知り合い?」
レイナは少し迷った。
だが。
「はい」
そう答えた。
少女は嬉しそうに笑う。
「バン兄なら夜に来るよ」
レイナの肩が少し落ちた。
「そうですか……」
ミミィは少し考える。
「あ、でも」
レイナが顔を上げた。
「昼間は荷運びの仕事してるって言ってたよ」
「本当ですか?」
「うん」
「ありがとうございます」
レイナは頭を下げる。
そして。
駆け出した。
「レイナ様!?」
クロードが慌てて後を追う。
「お待ちください!」
「急がないといなくなってしまいます!」
「ですからお待ちください!」
⸻
二人の背中を見送りながら。
ミミィはぽつりと呟いた。
「綺麗な人だったな……」
少しだけ考える。
「やっぱりバン兄ってモテるんだ」
⸻
荷物を担いでいた男が足を止めた。
通りの向こう。
金色の髪が揺れる。
「……レイナ」
思わず名前が漏れた。
その隣にはクロード。
二人は町の人へ何かを尋ねながら歩いている。
(まさか。俺を……探してる?)
胸が熱くなる。
思わず一歩踏み出しかける。
だが。
足が止まった。
視線が自然と自分の手へ落ちる。
火のクリスタルはない。
盗んだ男には、逃げられた。
今の仕事は、ただの荷運び。
顔だけなら、昔から女には困らなかった。
だが。
そんなものが、レイナの役に立つわけでもない。
(……今さら会って、何を話す)
レイナの隣にはクロードがいる。
護衛はもういる。
レイナは王女。
貴族でもない、ただの旅人の俺に。
レイナの隣にいられる理由なんてない。
唯一、俺にできることは。
火のクリスタルを取り戻すことだった。
(……あれがあれば)
「見つけてくれてありがとう」
そう言って笑ってくれたかもしれない。
それで十分だった。
でも。
(会う口実までなくしちまったな)
バンは苦く笑う。
そして。
静かに荷物を担ぎ直すと、建物の陰へ身を隠した。
レイナたちは気付かない。
「すみません。この辺で金髪の旅人を見ませんでしたか?」
「さあ……」
町の人は首を振る。
レイナは辺りを見渡す。
「レイナ様、行きましょう」
「でも……」
「夜、あの店へ行けば来るはずです」
レイナはもう一度だけ辺りを見渡した。
だが。
金色の髪はどこにも見当たらない。
「……わかりました」
レイナは小さく頷き、踵を返した。
その背中が遠ざかっていく。
バンは物陰から、黙って見送った。
(……これでいい)
レイナとは、住む世界が違う。
バンはレイナに背を向け、歩き出した。




