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女好きの旅人は、正体を隠した王女を放っておけない  作者: Wataru


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2人の男

男はクリスタルを握りしめる。


「俺のせいじゃない……」


赤い光が脈打つ。


「俺は悪くない!」


「おい!」


「俺は悪くない!!」


熱風が吹いた。


バンが目を見開く。


「まずい!」


轟音。


火柱が空へ上がる。


森が赤く染まった。


男は悲鳴を上げる。


炎が木々を飲み込む。


バンは舌打ちした。


「クソッ!」


火のクリスタルだ。


間違いない。


その隙だった。


男が再び走り出す。


炎の向こうへ。


「待て!」


追おうとする。


だが。


倒れた木が道を塞ぐ。


炎が広がる。


熱い。


前へ進めない。


バンは拳を握り締めた。


炎の向こうに男の背中が見える。


そして。


消えた。



森だけが燃えていた。


「……逃がした」


バンは荒く息を吐く。


火の粉が舞う。


赤い炎が夜空を照らしていた。


だが。


一つだけ確信した。


あの男が持っていた。


火のクリスタルを。


そして。


この火事は偶然じゃない。


バンは炎の向こうを睨む。


「絶対捕まえてやる」


ーー


「レイナ様!」


レイナは顔を上げた。


クロードが窓を指差している。


「外を!」


レイナは窓へ駆け寄った。


カーテンを開く。


遠く。


森の方角。


夜空を焦がすような赤い炎が見えた。


レイナの顔色が変わる。


「……!」


胸が締め付けられる。


あの日の光景が脳裏をよぎった。


燃え盛る炎。


崩れる建物。


母の姿。


「レイナ様」


クロードの声で我に返る。


レイナは拳を握った。


「行きましょう!」


迷いはなかった。


「はい」


二人は部屋を飛び出した。


ーー


森へ着いた頃には。


炎はほとんど消し止められていた。


周囲には大勢の人が集まっている。


消防隊。


兵士。


野次馬。


焦げた木々から白い煙が立ち上っていた。


レイナは辺りを見回す。


「遅かった……」


クロードも険しい表情を浮かべる。


「火の勢いが強かったようですね」


レイナはしゃがみ込む。


焦げた土へ触れた。


まだ熱が残っている。


普通の火災ではない。


火の力が暴れた痕跡。


間違いなく。


火のクリスタルだ。


そう確信する。


その時。


近くで話していた男たちの声が聞こえた。


「見たんだよ」


「本当か?」


「ああ」


レイナは足を止める。


「何を見たのですか?」


突然声をかけられ、男たちは驚いた。


だが兵士姿のクロードを見て答える。


「火事になる前だよ」


「二人の男が森へ走っていくのを見たんだ」


レイナとクロードが顔を見合わせる。


「二人?」


「一人は黒髪だったな」


「もう一人は長い金髪だった」


レイナの心臓が跳ねた。


長い金髪。


そんな特徴のある人物は多くない。


脳裏に一人の顔が浮かぶ。


旅人。


軽薄そうな笑顔。


金色の髪。


「……バン?」


思わず呟いていた。


クロードがレイナを見る。


レイナは焼け跡の向こうを見つめていた。


もし本当にバンなら。


どうしてここにいたのだろう。


火のクリスタルと関係があるのだろうか。


胸の奥がざわつく。


クロードは小さく息を吐いた。


「探しますか?」


火のクリスタル。


犯人。


そしてバン。


全部が一つに繋がり始めていた。


「ええ」


レイナは真っ直ぐ前を見る。


「探しましょう」


その時だった。


何かが月明かりを反射した。


「……?」


レイナは足を止める。


焦げた地面の上。


小さな銀色の光。


しゃがみ込む。


そっと拾い上げた。


「あれ……?」


見覚えがある。


旅の途中。


何度も見た。


バンが付けていたピアスだった。


レイナはそれを見つめる。


胸の奥が少しだけ苦しくなる。


ここにいた。


本当に。


バンはここにいたのだ。


レイナはそっとピアスを握り締めた。


無事なのだろうか。


夜風だけが静かに吹いていた。

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