火のクリスタル
「では、クリスタルについてはどうしますか?」
レイナは考える。
「そうね……」
レイナは窓の外へ視線を向けた。
昨夜のことが頭をよぎる。
バン。
女の子。
雨。
胸の痛み。
だが。
いつまでも立ち止まってはいられない。
「まずは情報を集めましょう」
クロードが頷く。
「王子も犯人の行方は掴めていませんでした」
「ええ」
レイナは小さく息を吐いた。
「でも何か見落としている気がするの」
「見落とし?」
「火のクリスタルを盗んだ理由」
クロードは腕を組む。
「金銭目的では?」
「危険な物よ?自分が命を落とすかもしれない」
レイナは首を横に振った。
「何か別の理由がある気がするの」
「クリスタル自体は、持ち主の願いを叶えてくれるものではありませんよね」
「そうだけど……持ち主の思いに連動して暴走する可能性はあるわ」
レイナは考え込む。
火のクリスタル。
それ自体に価値はある。
だが。
命を懸けてまで盗む理由になるだろうか。
「火のクリスタルが盗まれた直後に火災が起きているの」
「……」
「偶然とは思えないわ」
「つまり」
「誰かが火の力を利用した可能性がある」
レイナは窓の外を見る。
朝の街は平和だった。
だが。
二十七人が死んでいる。
「火事は事故ではないのかもしれない」
レイナは小さく呟く。
クロードの表情が引き締まる。
「その可能性はあります」
「でも何のために」
答えは出ない。
その時。
ふと昨夜のことを思い出した。
バン。
もしバンなら。
何と言うだろう。
レイナは苦笑する。
まただ。
気を抜くとすぐに考えてしまう。
「レイナ様?」
「何でもないわ」
首を振る。
今はクリスタルだ。
犯人を探さなければならない。
ーー
夜。
酒場は今日も賑わっていた。
バンは壁際の席に座っている。
ミミィは踊っていた。
音楽が終わる。
拍手が起きる。
そして。
ミミィがさりげなく視線を向けた。
バンも見る。
いた。
奥の席。
一人の男が座っている。
三十代半ば。
身なりは良い。
だが顔色は悪かった。
酒も飲まず。
机に肘をついて俯いている。
「あいつ?」
ミミィが小さく頷く。
「うん」
男は何かを握っていた。
赤い光がちらりと見える。
バンの目が細くなる。
間違いない。
⸻
男が席を立つ。
店を出る。
バンも後を追った。
夜道。
人気は少ない。
「よう」
男が振り返る。
警戒した顔。
「誰だ」
「ただの旅人さ」
バンは笑う。
「なぁ」
男の胸元を見る。
赤い光。
服の内側から漏れている。
「そのクリスタル、見せてくれよ」
男の顔色が変わった。
「……誰に聞いた」
「別に」
「誰に聞いた!」
男の声が大きくなる。
バンは肩をすくめた。
「そんな怒るなよ」
男は後ずさる。
目が怯えていた。
「お前もか」
「は?」
「お前も俺を責めるのか」
バンは眉をひそめる。
話が見えない。
男は震えていた。
「俺のせいじゃない」
小さく呟く。
「俺のせいじゃないんだ」
ミミィの話と同じだった。
「何のことだ?」
「うるさい!」
男が叫ぶ。
「返せよ」
バンの声が低くなる。
「そのクリスタル」
男は首を振る。
何度も。
何度も。
「嫌だ」
「返せ」
「嫌だ!」
男は叫んだ。
「これは俺のものだ!」
次の瞬間。
男が走り出した。
「待て!」
バンも追う。
路地を抜ける。
階段を飛び降りる。
人混みを突っ切る。
男は必死だった。
追われる獣のように。
やがて街外れへ出る。
そのまま森へ飛び込んだ。
⸻
木々の間を駆ける。
枝が顔を掠める。
男は転びそうになりながら走っていた。
「逃げんな!」
「来るな!」
男が振り返る。
その目は恐怖に染まっていた。
胸元から赤い光が漏れる。
光が強くなる。
嫌な予感がした。
「おい」




