あなたがいてくれたら
城を後にする。
夕陽が街を赤く染めていた。
火のクリスタル。
大火災。
死者二十七名。
情報は手に入った。
だが。
肝心の犯人については何もわからない。
レイナは歩きながら考える。
犯人はどこにいるのだろう。
何のためにクリスタルを奪ったのだろう。
そもそも。
どこから探せばいいのだろう。
わからない。
何も。
その時。
ふと一人の顔が浮かんだ。
――バン。
こんな時。
バンがいてくれたら。
レイナは足を止めた。
何を考えているのだろう。
バンがいたところで、
犯人がわかる訳ではない。
なのに。
何故かそんなことを思ってしまった。
「レイナ様?」
クロードの声に顔を上げる。
いつの間にか宿へ着いていた。
クロードは鍵を差し出す。
「部屋の鍵です」
「……え?」
「お疲れでしょう」
クロードは穏やかに言った。
「今夜はゆっくりお休みになってください」
レイナは鍵を受け取る。
小さく微笑んだ。
「ありがとう」
だが。
部屋へ向かう足取りは少しだけ重かった。
ーー
クロードと別れた後。
レイナは部屋へ戻った。
机の上に鍵を置く。
窓の外を見る。
夜の街はまだ明るかった。
火のクリスタル。
犯人。
死者二十七名。
考えなければならないことは山ほどある。
それなのに。
頭に浮かぶのは別のことだった。
――バンなら何か気付いただろうか。
レイナは小さく首を振る。
駄目だ。
考えても仕方がない。
もう別れたのだから。
そう思っても。
胸の奥が落ち着かなかった。
気が付けば窓を開けていた。
夜風が頬を撫でる。
「少しだけ……」
誰に言い訳するでもなく呟く。
そしてレイナは窓から外へ降りた。
⸻
夜の街を歩く。
酒場。
広場。
裏通り。
バンが好きそうな場所を探してみる。
けれど見つからない。
自分でも何をしているのかわからなかった。
会ってどうするのだろう。
謝る?
引き止める?
それとも。
ただ顔が見たいだけなのだろうか。
答えは出ない。
その時だった。
人混みの向こう。
見覚えのある背中が見えた。
レイナの足が止まる。
――バン。
間違いない。
レイナは思わず駆け出した。
「バン!」
人を避けながら近付く。
もう少し。
もう少しで追いつく。
だが。
その時。
隣に誰かいることに気付いた。
若い女の子だった。
楽しそうに笑っている。
そして。
自然な仕草でバンの腕へ自分の腕を絡ませた。
レイナは立ち止まる。
胸がざわついた。
どうして。
何が。
自分でもわからない。
バンも笑っていた。
楽しそうだった。
自分と旅をしていた時と同じように。
いや。
それ以上に見えた。
(私はバンの友人でも、恋人でもない)
話しかけようとしていた足が止まる。
声も出ない。
ただ遠くから見つめることしかできなかった。
⸻
ぽつり。
頬に冷たいものが落ちた。
雨だった。
やがて雨粒は増えていく。
人々が慌てて屋根の下へ駆け込む。
けれどレイナは動かなかった。
気付けば。
バンの姿も見えなくなっていた。
見失った。
もうどこにもいない。
レイナはその場に立ち尽くす。
雨だけが降り続いていた。
⸻
「レイナ様!」
遠くから声が聞こえた。
顔を上げる。
クロードだった。
息を切らしている。
「何をしているのですか!」
レイナはぼんやりと彼を見つめた。
「クロード……」
「探しました」
クロードは自分の上着を脱ぎ、レイナの肩へ掛ける。
「風邪を引きます」
レイナは小さく頷いた。
「ごめんなさい」
それ以上は何も言えなかった。
⸻
宿へ戻る。
濡れた服を着替える。
部屋には一人きりだった。
窓を叩く雨音だけが聞こえる。
ベッドへ腰を下ろす。
そして。
静かに自分の胸へ手を当てた。
まだ少し苦しい。
どうして話しかけられなかったのだろう。
どうしてあんな顔を見たくなかったのだろう。
どうして。
こんなにも胸が痛いのだろう。
答えはわからない。
けれど。
その夜。
レイナはなかなか眠ることができなかった。




