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女好きの旅人は、正体を隠した王女を放っておけない  作者: Wataru


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火の災い

街の広場は大勢の人で賑わっていた。


楽団の演奏。


屋台の呼び込み。


色鮮やかな旗。


何かの式典が行われているらしい。


「随分と賑やかですね」


レイナは人混みを見渡した。


「建国記念祭のようです」


クロードが答える。


広場の中央には立派な壇上が設けられていた。


そして。


その上には一人の青年が立っている。


王子だった。


民衆へ向けて穏やかに手を振っている。


レイナは足を止めた。


「王子様かしら」


「そのようですね」


できれば目立ちたくない。


そう思い、人混みへ紛れようとした。


だが。


遅かった。


王子の視線がこちらを向く。


そして。


目が見開かれた。


「まさか……」


壇上から声が聞こえる。


王子は周囲の制止も聞かず階段を降りた。


真っ直ぐこちらへ歩いてくる。


レイナは嫌な予感がした。


「レイナ王女殿下」


やはり。


王子はレイナの前で足を止める。


「ご無事だったのですね」


周囲がざわついた。


王女。


その言葉が人々の間を駆け巡る。


クロードが小さくため息をつく。


レイナは苦笑した。


「お久しぶりです」


――


場所を城へ移した。


応接室。


温かい紅茶が運ばれてくる。


王子はようやく落ち着いた様子だった。


「行方不明と伺っておりました」


「少し旅をしていただけです」


「国中が大騒ぎでしたよ」


レイナは曖昧に笑った。


嘘ではない。


だが本当でもない。


王子はしばらく黙った後、真面目な表情になる。


「それで」


「はい」


「なぜこちらへ?」


レイナも表情を引き締めた。


「火のクリスタルを探しています」


その瞬間。


王子の顔が曇った。


嫌な沈黙が落ちる。


レイナは嫌な予感を覚えた。


「火のクリスタルは……」


王子は静かに言った。


「昨年、何者かに奪われました」


レイナの手が止まる。


クロードも眉をひそめた。


「奪われた当日」


王子は続ける。


「大規模な火災が発生しました」


その言葉を聞いた瞬間。


炎が脳裏をよぎった。


燃え盛る屋敷。


赤い光。


熱風。


泣き叫ぶ声。


そして。


炎の向こうへ消えた母の姿。


レイナは目を閉じる。


自然と拳に力が入った。


「レイナ様」


クロードの声が聞こえる。


レイナは静かに息を吐いた。


そして。


小さく呟く。


「やはりそうでしたか……」


王子が眉をひそめる。


「予想されていたのですか?」


レイナはゆっくりと頷いた。


「母国でも大規模な火災が発生しました」


「アストリアでも……?」


王子の表情が強張る。


レイナは静かに目を伏せた。


「火のクリスタルが関わっていた可能性があります」


「火のクリスタルは強い力を持っています」


視線を落とす。


カップの中で紅茶が揺れていた。


「使う者によっては、人を傷つけることもある」


だから。


同じことが起きる気がしていた。


母を失ったあの日のように。


「被害は?」


王子の表情が沈む。


「死者二十七名」


部屋が静まり返った。


レイナは目を伏せる。


遅かった。


既に悲劇は起きてしまったのだ。


「犯人は?」


王子は首を横に振った。


「まだ見つかっていません」


レイナはゆっくりと立ち上がる。


「探します」


王子が驚いたように顔を上げた。


レイナの瞳には迷いがなかった。


「これ以上、被害を出す訳にはいきません」


母と同じ悲劇を。


二度と繰り返さないために。

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