しつこい客
しばらく歩く。
夜の街は賑やかだった。
屋台の灯り。
行き交う人々。
ミミィは上機嫌で話を続ける。
「でもね」
「ん?」
「ミミィだってモテるんだからね!」
「へー」
興味のない返事だった。
「何その反応!」
「いや、良かったな」
「絶対思ってない!」
ミミィは頬を膨らませる。
バンは肩をすくめた。
「毎日来てくれる常連さんもいるし」
「物好きだな」
「失礼!」
ミミィは拳を振り上げた。
「この前なんてね」
「ん?」
「クリスタルあげるから付き合ってくれって言われたの!」
バンの足が止まった。
「……クリスタル?」
「うん!」
ミミィは気付かない。
得意げに続ける。
「君にならあげるから付き合ってくれって」
「へぇ」
そう答えながらも。
バンの表情から笑みは消えていた。
「すごいでしょ?」
「その男」
「え?」
「どんな奴だ」
ミミィは首を傾げる。
「どんなって……」
「歳は?」
「三十くらい?」
「職業は?」
「知らない」
「名前は」
「知らない」
「何だそれ」
バンは呆れた。
ミミィはむっとする。
「だって聞いてないもん」
「聞けよ」
「そこまで興味なかったし」
それもそうか。
バンは小さく息を吐く。
「で?」
「で?」
「何色のクリスタルだ」
ミミィは不思議そうな顔をした。
「赤だったと思うけど」
バンの目が細くなる。
赤。
火のクリスタル。
偶然か。
それとも。
「どこで会った」
「酒場だよ」
「毎日来るのか」
「うん」
ミミィは頷いた。
「変な人なんだ」
「変?」
「お金持ちなのに全然飲まないし」
「……」
「たまにね」
ミミィは少し考える。
「俺のせいじゃないって、ぶつぶつ言ってるの」
バンの眉が動いた。
「俺のせいじゃない?」
「うん」
「何のことだ」
「知らない」
ミミィは肩をすくめた。
「聞いても教えてくれないし」
夜風が吹く。
バンは黙り込んだ。
火のクリスタル。
金持ちの男。
そして、
『俺のせいじゃない』
偶然にしては出来すぎていた。
「その男」
「うん」
「明日も来るのか」
「たぶん」
ミミィはニヤリと笑った。
「バン兄」
「何だ」
「ヤキモチ?」
「は?」
「ミミィに男の人がいるから」
バンは顔をしかめた。
「んな訳あるか」
「えー」
ミミィは不満そうに頬を膨らませる。
「ちょっとは焼いてよー」
「アホ」
即答だった。
「ひどい!」
「お前みたいなガキに誰がヤキモチ焼くんだ」
「ガキじゃないもん!」
ミミィは抗議する。
「もう少し大人になったらな」
「むうー」
バンは適当に聞き流した。
だが。
頭の中に残っていたのはミミィではない。
赤いクリスタル。
『俺のせいじゃない』
そして。
なぜかレイナの顔だった。




