いない者
バンと別れてから三日が過ぎた。
レイナは以前より口数が減っていた。
宿を出る。
町を歩く。
情報を集める。
やることは変わらない。
だが。
どこか空気が違った。
「レイナ様」
クロードが声をかける。
「そんなに気を落とさないでください」
レイナは足を止めた。
「……気を落としてなんか」
「落としています」
即答だった。
レイナは困ったように笑う。
「わかるの?」
「長い付き合いですから」
クロードはため息をついた。
「バンは面倒になったと言っていました。ただの気まぐれだったのでしょう」
「そんなこと……」
レイナは俯く。
あの時のバンの顔を思い出す。
笑っていた。
いつものように。
けれど。
どこか寂しそうだった。
気まぐれで去った人の顔には見えなかった。
その時だった。
路地裏で小さな影が動く。
痩せた子供だった。
地面に座り込み、硬くなったパンを食べている。
レイナは足を止めた。
昼間の少年を思い出す。
そして。
バンの言葉を。
『俺も昔はああだった……』
「私……」
思わず呟く。
「私、バンに何か失礼なことをしていたのかもしれません」
クロードが眉をひそめた。
「考えすぎです」
「でも」
レイナは子供を見つめる。
「バンがどうやって生きてきたのか、私、何も知らないし」
旅人。
女好き。
金好き。
そう思っていた。
けれど。
それだけではなかったのだ。
盗まなければ生きられなかった過去。
飢えた経験。
寒さに震えた夜。
そんなものがあったのかもしれない。
なのに。
自分は何も聞かなかった。
「……そうだわ」
レイナは顔を上げた。
「先に金貨を渡しておけばよかったのかも」
クロードが目を瞬かせる。
「金貨ですか」
「だって旅を続けてくれたのは金貨のためでしょう?」
真剣な顔で言う。
クロードは額を押さえた。
「レイナ様」
「何?」
「それは違う気がします」
「そうかしら」
レイナは首を傾げる。
クロードは言葉を探した。
だが上手く説明できない。
自分にも、なぜバンが去ったのかよくわからないのだ。
しばらく沈黙が続いた。
やがてクロードが口を開く。
「もうやめましょう」
「……」
「いない者のことを考えるのは」
レイナは小さく息を吐いた。
「わかってるわ」
そう言った。
けれど。
路地裏の子供から目を離せない。
そして。
その向こうにいるはずもない旅人の姿を、無意識に探してしまうのだった。
レイナは辺りを見回した。
「ねぇ、クロード」
「何でしょう」
「女の子の店ってどこかしら?」
クロードの足が止まる。
「……女の子の店?」
「ええ」
レイナは頷いた。
「バンがいるんじゃないかと思って」
クロードは頭を抱えたくなった。
「そんな場所に出入りしている者と、会わせる訳にはいきません」
「どうして?」
本気で不思議そうだった。
クロードは言葉に詰まる。
「レイナ様は、その店で何が行われているかご存知ないのでしょう」
「失礼ね」
即答だった。
クロードは少し安心する。
だが。
「女の子とお酒を飲んでいるんでしょう?」
「……」
「知ってるわ」
クロードは空を見上げた。
知っていなかった。
全く。
驚くほど。
「違うの?」
レイナが首を傾げる。
「いえ……間違ってはいませんが……」
説明しづらい。
非常に説明しづらい。
「じゃあ問題ないじゃない」
レイナはそう言って歩き出した。
クロードは慌てて後を追う。
「問題大ありです!」
「どうして?」
「どうしてもです!」
「変なの」
レイナは首を傾げた。
「お酒を飲むだけなのに」




