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女好きの旅人は、正体を隠した王女を放っておけない  作者: Wataru


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住む世界が違う

城壁が見えた。


これまで訪れた町とは比べ物にならない。


高い石壁。


立ち並ぶ商店。


行き交う人々。


「大きな町ですね」


レイナが感心したように呟く。


「王都ほどではありませんが、かなり栄えていますね」


クロードが答えた。


バンは肩をすくめる。


「宿代も高そうだな」


三人は人混みの中へ入った。


その時だった。


小さな影が走る。


レイナの肩から下げられた鞄へ手が伸びた。


「っ!」


だが。


次の瞬間。


クロードが少年の腕を掴んでいた。


少年は十歳にも満たない。


痩せている。


「離してください!」


必死に暴れる。


クロードは眉をひそめた。


「盗みはいけません」


「……!」


少年は睨み返す。


レイナが近付いた。


「クロード」


「姫……いえ、レイナ」


「まだ子供ですから」


「しかし」


「はい」


レイナは鞄から金貨を取り出した。


少年の目が見開かれる。


「これを」


少年は奪うように受け取った。


そして振り返ることなく走り去る。


クロードはため息をつく。


「また狙われますよ」


「そうかもしれません」


レイナは町を見回した。


痩せた子供。


豪華な馬車。


着飾った貴族。


「ここは格差の激しい町のようですね」


「そうですね」


クロードも頷く。


その横で。


バンは少年が消えた路地を見ていた。


「俺も昔はああだった……」


レイナが振り返る。


「え?」


「何でもねぇ」


バンは笑った。


だが。


その笑顔は少しだけ寂しそうだった。


ーー


その後。


図書館へ行く。


役所に行く。


特に役に立つこともない自分。


バンはいつものように、道行く女子に声をかけられる。


レイナは気にしない。


ここにいる意味あんのか。


何で旅してるんだっけ。


ああ、金貨か。


金貨……そんなに欲しかったっけ。


答えは出なかった。


ーー


夜。


宿。


窓の外では町の灯りが揺れていた。


バンは酒を飲む。


クロードは本を読む。


レイナは地図を広げている。


いつも通り。


なのに。


何かが違った。


昼間の言葉が頭から離れない。


『俺も昔はああだった』


孤児だった自分。


盗まなければ生きられなかった頃。


そして。


レイナ。


あいつは違う。


優しくて。


真っ直ぐで。


誰かを助ける側の人間だ。


俺とは違う。


クロードのような男が隣に立つべきなんだろう。


ーー


翌日。


出発の準備を終えた頃。


バンは口を開いた。


「俺、ここで降りるわ」


レイナの手が止まる。


「……え?」


「二人で十分だろ」


クロードが目を細めた。


「何か理由が?」


「面倒くさくなった」


嘘だった。


ある。


だが言えない。


「待ってください」


レイナが立ち上がる。


「どうしてですか?」


「向いてねーんだよ。こーゆーの」


バンは笑う。


いつもの軽い笑み。


だが目は笑っていなかった。


「じゃあな」


背を向ける。


「でしたら、約束のお礼を……」


振り返らない。


「バン!」


人混みへ消えていく。


レイナの声だけが聞こえた。


「バン……」



その夜。


バンは酒場にいた。


女の子が隣に座る。


笑う。


話しかける。


いつもなら楽しめる。


だが今日は違った。


酒もまずい。


話も頭に入らない。


店を出た。


夜風に当たる。


広場を歩いていると、


新聞売りの声が聞こえた。


「号外だよ!」


「行方不明の王女殿下!」


「最新情報だ!」


何気なく新聞を受け取る。


そこに載っていた顔を見て。


バンは固まった。


「……は?」


見間違いじゃない。


レイナだった。


『行方不明の王女レイナ殿下』


記事の文字が目に入る。


王女。


レイナが。


王女。


しばらく動けなかった。


やがて。


小さく笑う。


「王女だったのか……」


バンは新聞を見つめる。


小さく笑った。


「そういうことかよ……」


クロード。


礼儀作法。


知識。


気品。


全部繋がった。


「そりゃ俺なんかに言えねぇよな」


王女が素性を隠すのは当然だ。


相手はただの旅人。


しかも女好き。


「何されるかわかんねーもんな……」


少し考える。


「別に。何もしねぇけど」


自分で言って苦笑した。


酒を飲んでも消えなかったものが、


まだ胸の奥に残っていた。

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