気まずい
夜。
部屋へ入る。
クロードは荷物を置く。
バンはベッドへ腰を下ろした。
気まずい。
とにかく気まずい。
「……」
沈黙。
クロードは本を読んでいる。
話しかける気もなさそうだ。
バンは頭を掻いた。
「なぁ」
クロードが顔を上げる。
「何でしょう」
「あんた、どこから来たんだ?」
「アストリア王国です」
短い返事だった。
「そうか」
会話が終わる。
気まずい。
バンはため息を吐いた。
「レイナとは古くからの知り合いなのか?」
「はい」
「へぇ」
バンは頷く。
「どれくらいだ?」
「子供の頃からです」
「長ぇな」
少し迷う。
それから聞いた。
「心配で着いてきたとか?」
クロードは少しだけ考えた。
そして。
「……そうかもしれません」
バンは目を瞬く。
もっと堅い答えが返ってくると思っていた。
「そうか」
再び沈黙が落ちる。
クロードは本へ視線を戻した。
バンは天井を見る。
レイナの知り合い。
昔から一緒にいた男。
子供の頃から。
「……」
もし。
レイナに許婚がいたとしても。
別に不思議じゃない。
「何考えてんだ俺」
小さく呟く。
クロードは反応しない。
バンは寝返りを打った。
なぜか面白くなかった。
ーー
その頃。
部屋へ入る。
レイナは荷物を置いた。
静かだった。
「……」
昨日までとは違う。
ベッドは一人。
部屋も一人。
当然のことなのに。
やけに広く感じた。
レイナは窓際へ座る。
借りた本を開く。
だが。
数ページ読んだところで手が止まった。
「……」
いつもなら。
隣でバンが文句を言っていた。
本なんて読んで面白いのか、とか。
難しそうだな、とか。
そんな声が聞こえていた気がする。
レイナは小さく息を吐いた。
「静かですね」
誰も返事はしない。
当たり前だった。
「……」
本に集中できるはずなのに。
なぜか落ち着かなかった。
なぜだろう。
昨日までは一人でも平気だったのに。
レイナは首を傾げた。
答えは分からなかった。
ーー
翌朝。
バンが目を覚ます。
「……」
眠い。
隣へ視線を向ける。
「?」
ベッドが空だった。
クロードがいない。
「どこ行った?」
荷物はある。
だが本人はいない。
バンは眉をひそめた。
嫌な想像が頭をよぎる。
「……いや」
まさかな。
そう思う。
思うが。
なぜか落ち着かない。
バンは慌てて部屋を飛び出した。
廊下を歩く。
そして。
レイナの部屋の前で足を止めた。
「……」
クロードが立っていた。
壁際で腕を組んでいる。
「早ぇな、あんた」
バンは胸を撫で下ろした。
クロードが首を傾げる。
「?」
「いや、何でもねぇ」
何でもなくない。
さっきまで。
本気で変なことを考えていた。
クロードがレイナの部屋にいるかもしれない。
そんなことを考えて。
勝手に焦っていた。
「……」
何考えてるんだ俺は。
クロードは相変わらず無表情だった。




