帰らない
「バン、すみません」
レイナは少し困ったように笑った。
「クロードと二人で話したいことがあって……」
「話?」
バンは二人を見る。
知り合いなのは分かった。
だが。
空気が重い。
ただの再会ではない気がした。
「……わかった」
バンは肩を竦める。
「俺は図書館で本探してる」
「すみません」
レイナは頭を下げた。
バンは図書館へ戻っていった。
⸻
二人きりになる。
しばらく沈黙が続いた。
先に口を開いたのはレイナだった。
「クリスタルを見つけるまで」
真っ直ぐクロードを見る。
「私は帰るつもりはありません」
クロードの表情は変わらない。
だが。
眉がわずかに動いた。
「危険です」
即答だった。
「護衛もつけず」
「目的地も定まらない旅を長期間続けるなど――」
「バンがいてくれます」
レイナは言った。
「それに」
小さく微笑む。
「風のクリスタルも見つけました」
クロードは黙る。
しばらく考え込んだ。
やがて。
静かに口を開く。
「でしたら」
「?」
「私も同行します」
レイナが目を瞬く。
「え?」
「陛下の命令です」
クロードは淡々と言った。
「お帰りにならない場合は」
「護衛として同行しろと」
レイナは額を押さえた。
「お父様に言われたの?」
「はい」
即答だった。
レイナはため息を吐く。
「過保護なんだから……」
クロードは否定しなかった。
レイナは小さくため息を吐いた。
「わかりました」
クロードが頷く。
「ありがとうございます」
少し間が空く。
レイナは視線を逸らした。
「でも」
「?」
「バンには、私が王女だと知られたくないんです」
クロードは黙る。
レイナは続けた。
「クリスタルを見つけるまでは」
「黙っていてもらえますか?」
クロードは迷わなかった。
「承知しました」
レイナは少しだけ安心したように息を吐く。
「ありがとう」
そして苦笑した。
「あなたと私は友人ということにしておきましょう」
クロードが一瞬だけ固まる。
「友人……ですか」
「嫌?」
「いえ」
クロードは首を振った。
「承知しました」
相変わらず真面目だった。
レイナは思わず笑う。
「昔から変わらないわね」
「そうでしょうか」
「そうよ」
「レイナ様もお変わりありません」
「ここではレイナと呼んでください」
「はい」
ーー
バンは図書館へ戻った。
本を開く。
だが。
頭に入らない。
「……」
ページをめくる。
また戻る。
全然読めていなかった。
気になる。
さっきの男。
クロードとか言ったか。
レイナの知り合いらしい。
「知り合いって言ってもな……」
バンは椅子にもたれた。
ただの知り合いには見えなかった。
レイナも。
クロードも。
妙に距離が近い。
昔から知っているような。
そんな雰囲気だった。
「幼なじみか?」
あり得る。
だが。
何となく違う気もした。
クロードは騎士みたいな格好をしていた。
礼儀正しくて。
育ちも良さそうだった。
「……」
バンは眉をひそめる。
もし。
レイナが貴族なら。
許婚とかいてもおかしくない。
「いや、何考えてんだ俺」
思わず頭を抱えた。
別に。
レイナが誰と仲良くしようが関係ない。
そうだろ。
「……」
本を開く。
だが。
やっぱり文字は頭に入ってこなかった。




