ダブルベッド
部屋に入る。
大きなベッドが一つ。
レイナは荷物を置いた。
「広いですね」
「……そうだな」
バンは視線を逸らした。
レイナは気にしていない。
本当に。
まったく。
⸻
しばらくして。
二人はベッドへ入った。
「おやすみなさい、バン」
「おやすみ」
部屋の灯りが消える。
静寂。
しばらくすると。
規則正しい寝息が聞こえてきた。
「……」
バンは隣を見る。
レイナはもう眠っていた。
こっちは振り回されっぱなしだというのに。
「ったく……」
思わず呟く。
起こしてやろうか。
鼻でもつついてやろうか。
そんなことを考える。
「……」
バンは少し身を乗り出した。
レイナは気持ち良さそうに眠っている。
長い睫毛。
白い肌。
静かな寝顔。
「……」
思わず動きが止まった。
近い。
昼間は平気だったのに。
今は妙に近く感じる。
「何やってんだ俺」
バンは慌てて離れた。
当の本人は何も知らない。
規則正しい寝息だけが聞こえていた。
なぜかため息が出た。
それだけ信用されているということか。
それとも。
男として見られていないということか。
「……」
まぁ、それも当然か。
バンは天井を見上げた。
答えは分からない。
だが。
昼間のようなモヤモヤは少しだけ薄れていた。
隣から聞こえる寝息が。
妙に心地良かった。
「……」
バンは目を閉じる。
だが。
眠れない。
隣から微かに甘い香りがした。
レイナの髪だろうか。
普段は気にならなかった。
いや。
男だと思っていた頃は気付かなかっただけかもしれない。
「……」
バンは寝返りを打った。
近い。
近すぎる。
それなのに。
当の本人は気持ち良さそうに眠っていた。
ーー
翌朝。
窓から朝日が差し込む。
レイナはゆっくり目を開いた。
「……」
よく眠れた。
久しぶりに柔らかいベッドだった。
隣を見る。
バンは起きていた。
「おはようございます」
「……おう」
声が低い。
レイナは首を傾げた。
「眠れませんでしたか?」
「まぁな」
レイナは少し考える。
それから微笑んだ。
「でも」
「?」
「ダブルベッドもいいですね」
バンが固まる。
「は?」
「ぐっすり眠れました」
満面の笑みだった。
バンはしばらく黙る。
そして。
「そりゃあよかった」
そう言うしかなかった。
ーー
朝食のとき。
眠気覚ましにコーヒーを飲んだのに。
それでも眠い。
バンはタバコを口に咥えた。
「バン、早く行きましょう」
レイナの指先が服の裾を引く。
「……」
バンは固まった。
「バン?」
レイナが首を傾げる。
「どうしましたか?」
「いや」
バンは視線を逸らした。
「何でもねぇ」
レイナは不思議そうな顔をする。
意味が分からないらしい。
「行きましょう」
「ああ」
バンはタバコをしまう。
歩き出す。
レイナは自然に隣へ並んだ。
昨日までと同じ距離。
だが。
昨日までと同じではなかった。
レイナは何事もなかったように歩いている。
バンは小さくため息を吐いた。




