眠れない夜
夜。
焚き火の火が揺れている。
レイナは毛布に包まって眠っていた。
静かな寝息。
バンは木にもたれたまま空を見上げる。
眠れない。
理由は分かっていた。
ちらりとレイナを見る。
長い金髪。
穏やかな寝顔。
昼間見た巫女姿が頭をよぎる。
「……」
目を閉じる。
だが。
眠れない。
レイナはレイナだ。
そう思ったはずなのに。
男だと思っていた頃より、
ずっと気になる。
「……何なんだよ」
小さく呟く。
答えは出ない。
焚き火がパチリと音を立てた。
「女だったからか?」
確かにレイナは綺麗だ。
だが。
それだけなら、とっくに忘れている。
「……じゃあ何なんだよ」
分からない。
翌朝。
レイナが目を覚ます。
「おはようございます」
「……はよ」
バンは欠伸をした。
レイナが首を傾げる。
「眠れませんでしたか?」
「……まぁ」
「魔物ですか?」
「いや」
「考え事ですか?」
バンは少しだけ詰まった。
「そんなとこだ」
レイナは頷く。
「今日は町の宿に泊まりましょう」
「ん?」
「ちゃんと寝た方がいいです」
バンは思わず笑った。
「そうだな」
「はい」
レイナは嬉しそうに笑った。
バンは視線を逸らした。
街へ入る。
賑やかな通り。
露店。
商人。
旅人。
レイナは周囲を見回した。
「大きな街ですね」
「図書館もあるらしいしな」
その時だった。
「お兄さん♪」
若い女性がバンの腕を取った。
「ちょっと寄っていかない?」
バンが目を瞬く。
「お?」
女性は笑顔だった。
「楽しいお店よ?」
「いや、今は――」
言いかける。
すると。
「いいですよ」
レイナが言った。
バンが固まる。
「え?」
レイナは平然としていた。
「私は図書館にいますから」
レイナは微笑んだ。
「バンもたまには羽を伸ばしてください」
本気だった。
気を遣っているだけ。
それは分かる。
「……」
バンはレイナを見る。
本当に何とも思っていない顔だった。
俺が他の女と一緒にいても。
気にならないらしい。
まぁ。
そうだよな。
別に恋人でも何でもない。
ただの旅の仲間だ。
「……」
なぜか胸の奥が引っかかった。
「バン?」
レイナが首を傾げる。
「行かないんですか?」
「あーそうかよ」
バンは頭を掻いた。
「じゃあ行ってくる」
「はい」
レイナは笑顔で頷いた。
バンの姿が人混みに消える。
レイナは図書館へ向かった。
そのはずだった。
だが。
思わず振り返る。
もう見えない。
「……」
胸の奥が少しだけ重かった。
なぜだろう。
バンが女性と一緒にいる。
それは良いことのはずなのに。
「……変ですね」
レイナは首を傾げた。
そして図書館へ入っていった。




