普通の女じゃない
村に戻る。
老人は二人を見るなり立ち上がった。
「風のクリスタルは無事じゃったか」
レイナは頷く。
「はい」
老人は深く息を吐いた。
「そうか……」
安堵したようだった。
「では、本当に失われたのは火か水のどちらかじゃな」
レイナは小さく頷く。
「はい」
バンが眉をひそめた。
「待て」
二人を見る。
「失われたって何だ?」
老人が目を瞬く。
「お主、聞いておらんのか?」
「聞いてねぇ」
老人はゆっくり頷いた。
「世界を支える三つのクリスタル」
「火、水、風」
「そのうちの一つが何者かに奪われたと言われておる」
バンはレイナを見る。
「そうだったのか」
レイナは少し申し訳なさそうに視線を伏せた。
「……言っていませんでした」
「まぁいいけどよ」
「他のクリスタルはどこにあるんですか?」
レイナが尋ねる。
老人は腕を組んだ。
「火も水も、それぞれゆかりのある場所にあるはずじゃ」
「ゆかりのある場所?」
「ああ」
老人は頷く。
「じゃが、どこかまでは分からん」
レイナは少し肩を落とした。
せっかく手掛かりが見つかると思ったのに。
すると。
老人が思い出したように口を開く。
「そうじゃ」
「?」
「隣町に大きな図書館がある」
レイナが顔を上げる。
「図書館ですか?」
「古い歴史書も多い」
老人は頷いた。
「クリスタルについて調べるなら、あそこが一番じゃろう」
レイナは深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「礼には及ばん」
老人は笑った。
「若い者が村へ来るのも久しぶりじゃからな」
レイナも微笑む。
「行きましょう、バン」
「そうだな」
こうして二人は、隣町へ向かうことになった。
村を出てしばらく。
再び森の中。
バンが魔物の爪を避ける。
だが。
肩を浅く切られた。
「ちっ」
血が滲む。
「バン!」
レイナが駆け寄る。
「平気だ」
「でも……」
レイナは傷口へ手をかざした。
淡い光が溢れる。
傷が少しずつ塞がっていく。
バンが目を見開いた。
「お前……」
バンは目を瞬く。
傷はほとんど塞がっていた。
「魔法使えるのか」
「はい」
レイナは頷く。
「治癒魔法だけですが」
「だけって……」
バンは頭を抱えた。
やっぱり普通の女じゃねぇ。
男装して旅をして。
クリスタルを探していて。
今度は魔法まで使える。
何者なんだ。
どこかの貴族か。
それとも――
バンは首を振った。
考えても分からない。
「まぁいいか」
レイナはレイナだ。
何者だろうと。
調子が狂うことに変わりはない。
世間知らずで。
すぐ騙されて。
放っておくと危なっかしい。
そのくせ。
変なところだけ頑固で。
外見は弱そうなのに。
妙に芯が強い女だ。




