第5話 私が、神です
――翌朝。
あれ以来システム音声は流れていない。
なにか話をする切っ掛けが必要なのかもしれない。
――コンコン
ドアがノックされ、返事をする前にひかる姉の声がドア越しに聞こえる。
「京平君起きているかい?急で申し訳ないが今から星間通信室に一緒に行きたいのだが」
「りょーかーい、急いで着替えるからちょっとまってー」
「急いでボタンを掛け違わないようにな」
「(相変わらずお主は子ども扱いじゃな)」
「(いってろ)」
――――
――
それ程時間も経たず通信室へと到着すると、既にモニターには一人の物静かそうではあるが、視線の鋭い女性の姿がある。
「初めまして橘京平様。私は氷上ひかるの母、ソル教枢機卿氷上薫と申します」
そっと目を伏せるひかる姉の母だと名乗った女性。
アンチエイジングだろうけど、その姿は多く見ても30歳ほど。
それにひかる姉とは違った美しさを感じる。
そんな氷上薫枢機卿に見とれていると、わき腹に肘が入った。
――ドスッ。
「ゲホッ!」
「見惚れてないで挨拶しないとダメだぞ」
そう耳打ちして来るひかる姉だが、思いのほか肘が強烈でいまだ声が出せない。
「ふふふっ、この8年でずいぶん仲が良くなったのですね」
ひかる姉の母さんだけあって、ひかる姉を見つめる視線の圧が凄まじい。
「いえ、その今のは……」
「いいのですよ、あなたの教育方針を間違ったと思っていたのは今に始まった事ではありませんからね」
今のセリフは聞き捨てならない。
俺にとってこんな出来た家族はそうはいない。
「じゃあんたが俺に8年付き合えば良かったんじゃないのか?」
「京平!」
ひかる姉を右腕で遮る。
「そりゃあんた達がいなけりゃ俺は宇宙のどこかでモルモットにされてるか訳の分からない辺境の戦場に送られてただろうさ。そこは感謝してるよ。でもな、俺の家族をなめるなよ?」
思わず言ってしまった。
言い切ってから大した事でもなかったと気づいても、何故か口からその怒りが出てしまった。
「ふふっ、ははははっ!すまないね少年。いや、京平様。今のは私が悪いですね、訂正しましょう」
「京平、お前言い過ぎだ」
「ひかる!」
「ひゃい!」
「よくぞ彼を立派な男子に育てました。先ほどの教育方針を間違えたと言った事、許してくれますか?」
「も、勿論ですお母さま!」
「……枢機卿と呼びなさい」
「枢機卿様!」
「はぁ……京平様。これで許して頂けますか?」
「いえ、俺も言い過ぎました」
「それで今日は勇者の人格について知りたいとひかるから聞きましたが、その件でよろしいですか?」
「はい」
「では何故それを知りたいのか理由を伺っても?」
「勿論です」
――そして俺は氷上枢機卿へ何故その話になったのかも含め話をした。
俺ではない俺の夢の事だ。
「京平様の理由はわかりました。勇者の素養は未知の部分は多いです、ですがあなたは神の核を宿した者。一概に全てが当て嵌まるとは思いませんが、こちらに僅かに残っている情報をお伝えしておきます」
枢機卿の話を聞いて俺はハッとする。
「か、神の核って……知ってたのですか」
横のひかる姉を見ると彼女は顔を背ける。
「ひかるは黙っていたのですね、許して上げてください」
言って頭を下げる枢機卿。
「8年前のあの日、既に私たちは貴方に帝国が保管していた核が貴方の中にある事は知っていました。ですが、既に勇者の素養や英雄、それに規格外の処理数。どうしても私たち以外の勢力にバレるわけにはいきませんでした」
「そ、そうですか」
「そこで山田健太君が核の持ち主だと思っていたエリシス王国へ接触、真実を女王へ明かした上で協力を得ていたのです」
「女王も知ってるんですか!?」
「貴方を守るため、必要最低限の者にのみ共有しています」
「……ありがとうございます」
「いい青年ですね。ひかる?」
「はい」
「あなた自分好みに育て夫とするつもりでしたか?」
「ひゃい!?」
「へっ!?」
思わず俺も変な声が出た。
「あら、いい顔がみれましたね。では勇者についてお話ししましょう『遥か昔に実在した勇者の話です』」
―― 昔々、人々に素養が見つかり始めた頃、一人の男に勇者の素養が発現した。
まだ星々の国は定まっておらず、ソル教と対極をなす宗教との戦いも相まって混乱の時代だった。
その勇者の力は絶大で、その力は星をも滅ぼしたそうだ。
その勇者の中に居たとされるのが『マニ』と呼ばれる存在だった。
マニの姿は誰も見た事はなかったが、勇者は常にそのマニの事を語っていた。
「私の中には月の神マニが居る」と。
――「月の神、マニ」
「はい。ですが京平様が取り込んだのは間違いなく我がソル教のご神体であるソル様であり、過去の勇者が言っていたマニではない事は確実なのです。ですのであなたが見た夢とも関係は未知数です」
「そう、ですよね」
「そして夢に出てくる男性、ヘラクレスについてですが」
「なにかわかりましたか!?」
「ええ、一つだけ。関係の無いほんの砂粒の様な情報ではありますが、お聞きになりますか?」
「是非!」
もし俺の予想が正しければ……この世界は未知の世界でも異世界でもなんでもない――
「ヘラクレス。太古の昔、人類最初にドラゴンを屠った人物とだけソル教の禁書庫で見つけることが出来ました」
「ちっがーーーーーーう!」
正直ヘラクレスの夢を見た時、この世界は俺の居たギリシャ神話のあるあの地球の存在した世界なのかと思ったのだが、全然違うかった。
そして俺はそのまま椅子ごと後ろに倒れて気絶した。
「どうしたのだ京平!おい京平!」
――「(おいシステム音声)」
「(なにか)」
「(けっ、やっぱりお主も聞いておったんじゃな)」
「(情報は命ですので)」
「(で、お主がマニって事で間違いないんじゃな?)」
「(ディープスキャン開始……神、マニ……照合……個体識別確認完了しました)」
「(おっ、出たか。結果は)」
「(月の神マーニ。私です)」
「(は?)」
「(私が、神です)」
「(ちょっとまてーーーーい!おい京平起きろ!おい事件じゃ!お主の頭の中で事件が起きとる!おい京平!!)」




